キリン、ビール会社から健康関連へシフトの裏側…「プラズマ乳酸菌」がバカ売れ

 また、プラズマ乳酸菌の菌体は、同社の看板ブランド「生茶」や「午後の紅茶」にも配合され、商品パッケージに記されている。他社への菌体供給も進め、現在、プラズマ乳酸菌関連商品は38商品(キリングループ27商品、外部パートナー企業6社で11商品)に増えた。

 2022年9月には日本コカ・コーラ社に提供することで合意した。今後、日本コカ・コーラより同乳酸菌を配合した飲料の開発が進められる予定で、他社への供給も含めて免疫対策市場を盛り上げたいのだ。キリンが「iMUSE」ブランドより、菌体の「プラズマ乳酸菌」を前面に打ち出す理由もここにある。

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小売りの店頭で存在感を高めた「iMUSE」のペット飲料2品。健康イメージの高い「ヨーグルトテイスト」のほうがよく売れるという
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他社ブランドも増え、関連商品も拡大した(写真提供:キリンホールディングス)

コア技術「発酵・バイオテクノロジー」の横展開

 ここで、冒頭に記した「なぜ、ビールのキリンがプラズマ乳酸菌に力を入れるのか」を永井さんに聞いてみた。

「みなさん疑問に思う点だと思います。実は、キリングループのコア技術は発酵・バイオテクノロジーなのです。ビール製造の工程で必要となるビール酵母、そうした発酵技術によって生み出した素材は健康機能性などの価値があり、これまでもさまざまな事業に応用されてきました」

 キリンが医薬事業に参入したのは、40年前の1982年だ。開発の背景は、「強すぎるキリンビール」への危機感からだった。

「当時、ビール市場におけるキリンのシェアは60%を超えており、独占禁止法に抵触する恐れもありました。そのリスクを減らし、既存の経営資源を有効活用するため、事業多角化の声が高まりました。そして1981年、社内から医薬品事業参入を提言した調査報告書(通称「斎藤レポート」)が提出され、医薬品事業への進出が基本方針となったのです」

 さらに「バイオテクノロジーを切り口とした医薬品事業への参入が有望」とされた。

 なお、「独占禁止法」(独禁法)とは正式名称が、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」で、簡単に記すと私的独占行為を禁じている。戦後の日本経済の事例でよく紹介されるが、1987年に「スーパードライ」(アサヒビール)が発売されるまでのビール業界はキリンビールが圧倒的強者で、同法に抵触しかねないほどの勢力図だった。

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基礎研究から応用研究まで、研究開発にも注力してきた(写真提供:キリンホールディングス)

主力のビール系の消費量は年々縮小

 前述した「売上高に占める国内ビール・スピリッツ事業:36.3%」に対して、「医薬事業:19.3%」「その他事業:19.1%」となっている。40年で医薬事業も2割弱まで伸びた。

 まだまだ差が大きいように思えるが、少子高齢化、健康意識の高まり、嗜好の多様化などでビール系飲料の消費量は年々減っている。「国内のビール系飲料の2021年出荷量は前年比5%減」(キリンビール調べ)で、17年連続で縮小した。ノンアルコール市場も伸びているが、昨年の他社取材では「ビール類を“100”とするとノンアル市場は約“5”」と聞いた。

 つまりメーカーとしては、“今日のメシ”(ビール・スピリッツ事業等)が元気なうちに、“明日のメシ”(医薬事業、その他事業)を育成し、次の主力事業に育てたいのだ。

「プラズマ乳酸菌は、免疫細胞の司令塔『プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)』に働きかけることができる世界で初めての乳酸菌で、2010年にキリンの藤原大介(現ヘルスサイエンス事業部部長)によって発見されました。免疫細胞の司令塔に直接働きかけるのが特長です」