今回も、政府は調査に消極的で、8月15日の答弁書では「個人の政治活動に関するもので、調査を行う必要はない」としていた。政府は、調査は解散命令請求を前提にして行われるもの、と見ており、請求を行うつもりがない以上、調査をする必要はない、という立場のようだった。
こうした流れを変えたのが、消費者庁の有識者検討会だった。同検討会は10月17日朝に公表した報告書のなかで、解散命令について一般論として慎重姿勢に理解を示しつつ、調査に関するこれまでの行政の消極的な対応には疑問を呈した。そのうえで、旧統一教会に関しては、解散命令の要件に該当する疑いがあるとして、「解散命令請求も視野に入れ、宗教法人法に基づく報告徴収及び質問の権限を行使する必要がある」と提言した。
提言に背中を押されたのか、政府は突如方針を変更。同日朝、岸田首相は河野太郎・消費者相、永岡桂子・文科相らと対応を協議し、永岡文科相に「質問権」を活用した調査を指示し、衆院予算委員会でそのことを明らかにした。
本来、政府の一貫性のなさが問われるところだが、ここは南野教授の助言を受け入れて、その点を追及するより、柔軟に対応したと、ひとまず前向きに受け止めたい。
ただ、調査を実施するとはいっても、法律上、所轄庁の権限は極めて控えめなものだ。
調査の前には宗教家や学識経験者で構成される宗教法人審議会の意見を聞かなければならないという縛りがあり、質問のために教団施設に立ち入る時には、当該宗教法人の同意が必要。教団は立ち入りを求める役所の職員を門前払いできる。
同法のこの条項は、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起きた1995年秋に行われた臨時国会での宗教法人法改正によって加えられた。それまでは、宗教法人に対する行政の調査権限はまったくなかったのだ。しかし事件後、「行政が以前から教団の実態をもっと把握しておくことができなかったか」と法改正を求める世論が高まった。一方、「信教の自由」という観点から懸念の声も根強かった。
そのため、前述のような遠慮がちな「報告徴収及び質問」の権限に留まったが、それでも公明党や小沢一郎氏らが率いる新生党などが合流してできた新進党が、法改正は「国家による宗教弾圧の蟻の一穴になる」と猛反対。これに同調する識者もいた。参議院では、同法改正のための特別委員会に宗教関係者、憲法学者など学識経験者のほか、カルト被害対策に取り組む弁護士が参考人として意見を述べるなど、慎重な審議が行われた。そこでは、政教分離のあり方や、旧統一教会を含めた新興宗教による霊感商法も話題になった。
当時の政府は、自社さ連立政権。村山富市・首相以下の閣僚は連日特別委に出席し、法改正が「必要最小限」のものであることを説明した。村山首相は、憲法が保障する信教の自由にはいささかの変更もないことを繰り返し述べて、粘り強く法案への理解を求めた。そして、会期を延長して可決にこぎつけた。
また、この参院特別委で、武村正義・大蔵大臣(当時)は、宗教法人が税制上の優遇措置を受けていることを念頭に、次のように答弁している。
「私ども税の立場で見ておりましても、宗教法人をかたる、営業のために宗教法人を買収したりして巧妙に使い分けをして金もうけに走っている例もございますし、また昨日の霊感商法の例のようなああいう行為も一部ございます。(中略)そのことに政治が目をつむっていていいのか」
また、島村宜伸・文部大臣(当時)は、同じ参院特別委で次のように述べた。
「宗教法人の側としても、法人格を得るということで、社会的にある種の権威、あるいは税制上の優遇等々が得られるわけでありますから、当然に宗教法人の公共性に対応した公正な管理運営を確保する責務がある。(中略)法人格を与える、認証をするというだけが所轄庁の仕事でなくて、その後の適正な管理運営を見守るといいましょうか、所轄するといいましょうか、そのことの責任は当然にあると私は考えます」