江川紹子が解説する【旧統一教会への調査指示】の意味と今後の注目点

 南野森・九州大学教授(憲法学)は、「法律では、解散要件は非常に抽象的です。最高裁はこの要件について何も言っていません。あるのは、下級審の判断だけ。文化庁などが引き合いにしているのは、オウム真理教に対する東京高裁の決定です」と語る。

 この高裁決定では、確かに問題とする行為を、「宗教法人の代表役員等が法人の名の下において……した行為」「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」と、かなり狭く捉えた解釈をしている。

 これを教団は利用している、と南野教授は指摘する。

「旧統一教会は、この高裁決定を踏まえて、関連団体に“ファイヤーウォール”の働きをさせ、教団本体に追及の火の手が及ばないような仕組みを作って活動しています。それによって膨大な被害が生まれ、これに対して民事裁判では、教団の不法行為責任を認める判断が出ている。そうである以上、解散命令に関して、27年も前の下級審の法解釈に縛られる必要はないと思います」

 にもかかわらず、政府の腰はなぜ重いのか。

政府が「調査指示」へと一転した背景…流れを変えた消費者庁・有識者検討会による報告書

 南野教授は、「深読みかもしれませんが」としたうえで、役所にありがちな2つのメンタリティを挙げる。

「ひとつは、今まで解散命令の請求をやってこなかった責任を問われたくない、という発想。つまり、教団が最近になって何か大きな事件を起こしたのではなく、教団は何年も前から同じ行為をしてきたわけですね。今になって対応するのは、役所としての一貫性を問われるのではないか、と恐れる。

 もうひとつは、お役所は負け戦をしたくない。100%勝てる確信が持てなければやりたくない。もし、裁判所から『解散に値しない』と言われたら、教団から損害賠償を求められるかもしれない、と考えるわけです。認められなければ、国としてのメンツの問題もありますし」

 しかしそうなると、本来は裁判所が判断する仕組みなのに、実際には行政が基準を決めることになる。

「時代背景もあり、(行政が何もしてこなかった)今までのことは仕方がない、と言ってあげないと、政府は動けないのかもしれません。この問題に取り組んできた弁護士や学者などと共に知恵を出し合えば、過去の判断は乗り越えられるはずです」(南野)

 たとえば全国弁連は、政府側と同じオウムに対する東京高裁決定を挙げて、問題視する行為は犯罪行為に限定されない、と反論している。

 同決定は、宗教法人が武力抗争のほか「詐欺、一夫多妻、麻薬使用等の犯罪や反道徳的・反社会的行動」などを行う「反道徳的・反社会的存在」となった場合に対処するための措置として、解散命令の制度を「必要不可欠」としている。

 旧統一教会の行為は、これまで繰り返し司法の場で民法上の「不法行為」を認定されており、それに対する反省や被害者への謝罪もない。同決定で述べられている「反道徳的・反社会的存在」であることはいうまでもなく、教団は解散命令の対象になる、というのが全国弁連の主張だ。

 このまま政府が解散命令請求を避けていれば、旧統一教会は宗教法人であることを理由に、税制上の優遇措置を受け続けることになる。献金強要などによって日本の信者やその家族から吸い上げられた巨額の金は、非課税のまま韓国に送られ、その額は毎年数百億円に達する、とも報じられている。

「これはもはや、国益に反する、といえるのではないでしょうか」(南野教授)

 なにより解せないのは、政府が、宗教法人法が認めている調査にすら、消極的な態度を続けてきたことだ。

 宗教法人法は、解散命令に該当する疑いがある場合には、当該の宗教法人に報告を求め、役員などに質問する権限を所轄庁に与えている。しかし、文化庁はこの質問権を行使したことは今まで一度もない。