もともとSMICは米国のエンティティーリスト(EL)に載っており、10nm以降が製造できる装置の輸出が禁止されていた。それに該当する装置は、オランダASMLだけが供給できる最先端露光装置EUVだけだった。そのため、SMICはもちろんのこと、DRAMの生産にEUVを使うことを計画していたSKハイニックスの中国無錫工場にも、EUVが導入できない事態となっていた。
今回の米商務省の規制は、それをさらに厳格化したものである。そして、16/14nm以降の装置の輸出を禁止する規制は、サムスン電子とSKハイニックスの中国工場にも適用されるという可能性が浮上している。もしそうなったら、サムスン電子とSKハイニックスのメモリ工場は本当に「死ぬ」。
そしてその場合、日本の装置メーカーや材料メーカーにも悪影響がある。というのは、AMATの成膜装置、Lamのドライエッチング装置、KLAの検査装置がなければ、16/14nm以降の生産ラインが構築できない。となると、東京エレクトロン(TEL)のコータ・デベロッパやSCREENの洗浄装置を導入する意味がなくなってしまう。加えて、16/14nm以降の生産ラインが構築できなければ、シリコンウエハ、レジスト、薬液、スラリ等の材料ビジネスがすべて消滅する。
さらに、米国による中国への規制はこれだけに留まらない。
2022年7月22日、ブルームバーグが、SMICが7nmの半導体を出荷していることを報じた。7nmは、ArF液浸とダブルパターニングを2回繰り返すクアドラプルパターニング(正しくはSelf-Aligned Quadruple PatterningでSAQPと略す)の組み合わせで生産することができる。恐らく、SMICはTSMCの7nmを解析することにより、この開発と生産に成功したと思われる。
TSMCの7nmは米インテルの10nmとほぼ同じ微細性であるが、インテルが2016年に10nmを立ち上げることができず、5年以上に渡って足踏みをしたことを考えると、いくらTSMCのチップを参考にしたからとはいえ、SMICが7nmを生産しているということは驚くべきことだ。
そして、米国は、この事態を許すことができない。そこで、米国はArF液浸を供給できるASMLとニコンに対して、中国へのArF液浸の輸出を禁止するよう要請している(というより圧力をかけている)と思われる。もし、この禁輸規制が実現すると、SMICは7nmはもちろんのこと、ArF液浸の解像限界である38nm以降の半導体が生産できなくなる。さらにこの禁輸措置は、もしかしたらサムスン電子とSKハイニックスの中国のメモリ工場にも及ぶ可能性が否定できない。
さらに米国は、EDAメーカーのSynopsys、Cadence、Siemens(元Mentor)に対して、中国へのソフトの提供を禁止した。これによって、約3000社もある中国の設計ファブレスのビジネスが棄損される。当然、そのファブレスから生産委託を受けていたSMIC、TSMC、UMCなどのファウンドリーのビジネスも消滅し、そこに装置や材料を供給していた企業のビジネスも消滅する。
加えて米国は、AI半導体として使われるNVIDIAのGPU(画像プロセッサ)やAMDのCPUについても、中国への輸出を禁止した。NVIDIAとAMDは、主としてTSMCに生産委託していたため、その受託生産のビジネスが縮小するとともに、当然のことながら、その生産に使われる装置や材料のビジネスも棄損されることになる。