縮小する自販機市場でコカ・コーラを猛追するサントリー…次の一手は?

価格競争に乗らず、いかに付加価値をつけるか

 少し引いた視点で、飲料自販機を考えてみたい。

 森さんによれば「飲料自販機のコアバリュー(中核となる価値観)は、『場所が近くて、中身が冷えている(温まっている)』だという。「ブランドが約束するもの」にあたる。

 学生時代に運動系の部活をやっていた人なら、終了後の飲料自販機は「ノドを潤した」記憶とつながる人も多いだろう。先輩やOB・OGにおごられた経験を持つ人もいるはずだ。

 ただし、近くて便利なのは魅力だが、自販機の飲料価格は安くない。たとえば、職場に自販機があっても、自宅近くのスーパーやドラッグストアで安く買った飲料を持参して出勤する人も目立つ。多くの商品の値上げが続くご時世では、消費者は生活防衛を行うだろう。

「設置までの人件費、機材代やメンテナンス料もかかる自販機は、価格戦略をとれるチャネルではありません。だからこそ、別の魅力を打ち出す必要があります。他の小売業、たとえばコンビニは、弁当やスイーツ、ドリップコーヒーなど多くの商品の魅力を高めてきました。一方で飲料自販機は、ほぼ飲み物しか提供してこなかったのです」

「ボスマート」の設置場所による売れゆき状況は、消費者心理を知る好事例だ。

「販売するお菓子は、休憩時間が15分など短い職場では売れます。秋以降になるとカップ麺の販売も増えます。小腹を満たすだけでなく、温まりたい気持ちもあるからです」

移動でき、少ない日販でも成り立つ“小売店”

 低価格訴求では分が悪い飲料自販機だが、別の優位性がある。

「“移動できる小売店”の視点では、多様な場所に出店や移設しやすい特徴があります。大手コンビニに比べると、少ない日販でも成立できる業態です。そうした機動性があるため、きめ細かいニーズに応じて自販機サービスを展開することが可能です」

 現在の「飲料メーカー専用自販機」で、首位は「コカ・コーラ」の約75万5000台だ。2位の「サントリー」(約37万8000台)を引き離すが、2位メーカーの取り組みは熱い。

 軽食では、今でも各地に残る「昭和レトロ自販機」も人気だ。ハンバーガーやうどん、そばなどが懐かしい機械で調理される様子は、テレビで放送されることが多い。筆者も利用経験があるが、出てくるまでのワクワク感もあり、思い出に残る。これもまた情緒性だ。

 サントリーは地下水の水源を守る活動にも力を入れ、「サントリー天然水」ブランドでも訴求する。今後、川上から川下までの取り組みを自販機提案に取り入れる手もあるだろう。

「ボスマート」や「社長のおごり自販機」は、成熟市場の活性化としても興味深い。コカ・コーラの“赤い自販機”をどこまで追えるか。“青い自販機”の動向に注視したい。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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コカ・コーラの“赤い自販機”は設置台数で競合を圧倒する
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晴れた日のリゾート地では、自販機を使う消費者も増える(写真はイメージ)