実現までのハードルもクリアして特許も取得。テスト導入期間を経て、2022年3月末から本格スタートすると、大ヒットとなった。サントリーによれば「全国1万台、導入後継続率99%」(※)だという。
※1万台=2022年5月末時点。99%=ボスマート導入後継続率調査。2021年1月~6月。対象台数6161台の調査結果による
「たとえば、都心の高層ビル上階に入居する会社だと、下に降りるまでのエレベータがなかなか来ない、という不満も聞きます。逆に不便な立地にある会社では、コンビニまで遠いといった環境にあります。そこでボスマートは、『徒歩0分マーケット』で訴求しています」
これ以外に「社長のおごり自販機」も開発した。
「その自販機で欲しい飲料を選び、専用タッチ部分に2人でICカードの社員証をタッチすると、1本ずつ飲料が無料になる仕組みです」
職場のコミュニケーション活性化を目的に、今年5月から全国展開を始めた。飲料費用は設置先の法人負担で、会社の福利厚生の一環だが、「社長のおごり」のネーミングがユニークだ。スタート前の実証実験では、文具やオフィス家具で知られるコクヨが協力した。
もともと発想の起点は「自販機が大好きなので、オフィスの真ん中に置きたかった」のだという。自販機が中心に来るシーンを思い巡らすうちに、この自販機に結実していった。
「自販機は、1人では黙って使いますが、誰かと一緒に使う場合は会話が多いのです」
森さんは“挨拶以上、食事未満”というキーワードでも説明する。
「ふだん挨拶する程度の同僚をランチに誘うのは気が重くても、自販機に誘うのなら気持ちも楽でしょう。多くの職場で、かつては『タバコ部屋』(喫煙ルーム)が社内の情報交換の場だったように、ちょっとしたおしゃべりの場になれないか、とも思いました。実際に、この自販機の導入先からは『近未来のタバコ部屋だね』という、うれしい言葉も頂きました」
ちなみに、「社長のおごり自販機」が使えるのは、あくまで2人まで。3人以上は自販機が詰まってペットボトルを取り出せなくなる、という構造上の理由で“おごり”とならない。
また、ICカード社員証を導入していない企業には専用カードの提供で利用できるという。
一連の説明を聞きながら、いくつかのキーワードを思い描いた。
最初に紹介した「ボスマート」は、オフィスで働く人の不満や不便(エレベーターが来ない、店まで遠い)を解消するものだ。昔から言われる「不満あるところにビジネスあり」の解決策でもある。マーケティングの視点では「機能的価値」の要素が強い。
次に紹介した「社長のおごり自販機」は、自販機をきっかけにしたコミュニケーションを目指すものだ。コロナ禍以降、リモートワークの普及や時差出勤などで「久しぶりに同僚とリアルで会った」という人も多いだろう。自販機の前で会話が弾めば、職場の雰囲気も良くなる。こちらはマーケティング視点では「情緒的価値」となる。
「これまでの自販機営業の基本は、『ぜひ、ウチの自販機も置いてください』でした。でもコロナ禍で、出勤する従業員が減ると自販機の需要も減り、『5台もいらないから3台に減らすか』という判断にもなりかねません。
それを『社員同士のコミュニケーションになります』と付加価値をつけた自販機で提案すると、興味を持ってくださる企業が多い。これまで総務部門などが窓口になることが一般的でしたが、経営者の方にも話を聞いてもらえるようになりました」