自動車用半導体の不足が解消されない原因…車メーカーの態度に問題があるからだ

 だが、状況は一変して「この2年間は電話が掛かってきて、まるで親友みたいだ」と話し、聴衆の笑いを誘った。ある自動車メーカーからはウエハーを至急25枚供給するよう頼まれたが、普段さばいている注文は2万5000枚規模だという』

 上記のTSMCの魏哲家(C.C.Wei)CEOの発言で、筆者が気になったのは次の2点である。

1)TSMCのCEOに自動車メーカーの誰が電話をかけてきているのか
2)自動車メーカーから至急25枚供給するように頼まれたウエハーは、その後どうなっただろうか

 筆者は次のように予測する。

誰が電話をかけ、その結果はどうなったか

 世界最大にして最強のファウンドリーであるTSMCのCEOに電話を直接かけるとしたら、それは誰だろうか? 常識的にいえば、代表取締役社長でなければ釣り合いが取れない。しかし、実際はそうではなく、自動車メーカーの調達部門の課長か部長あたりが電話しているのではないか。

 自動車産業界には完成車メーカーを頂点とした、あからさまなヒエラルキーがある。完成車メーカーからすると、TSMCは3次下請けにすぎない。したがって、たかが3次下請けごときに完成車メーカーの社長様がわざわざ電話するはずがなく、調達部門の課長か、せいぜい部長あたりが「早くマイコンをよこせ」と威張って電話してきているのではないか。

 そして、その要求も、通常最低でも2万5000枚規模であるところが、たったの25枚である。百歩譲って自動車メーカーの社長様が直々に「マイコンを25枚、ただちに供給してくれ」と電話したとしても、TSMCのCEOは「たった25枚」であることに呆れかえったことだろう。その結果、その25枚は優先的に生産されるはずもなく、仕込みの順番待ちの最後列に並ぶことになったのではないか。いや、生産することになったのならまだましで、ウヤムヤにされて注文自体が消滅したという可能性もあり得る。

自動車減産の原因は自動車メーカーの態度にある

 図6にTSMCの製品別半導体の売上高比率を示す。2022年第2四半期にTSMCのビジネスのなかで最も大きな比率を占めているのは、High Performance Computing(HPC)の43%である。次いでスマートフォンが38%、IoTが8%で、自動車用半導体はわずか5%しかない。

自動車用半導体の不足が解消されない原因…車メーカーの態度に問題があるからだの画像7

 しかも、自動車用半導体は種類が非常に多く、1種類ごとの生産規模が小さい(通常2万5000枚規模であるところを25枚で頼むように)。さらに、信頼性基準が他の半導体より桁違いに厳しい。要するに、TSMCにとって自動車用半導体は、あまり割に合わないビジネスであるといえよう。となると、TSMCにマイコンやパワー半導体の生産を委託しても、なかなかつくってくれないということは大いに考えられることだ。

 マイコンとパワー半導体を生産しているのはTSMCだけではないので、以上の理由がリードタイムの長期化のすべての原因ではないかもしれない。しかし、自動車メーカーが2次下請けや3次下請けの半導体メーカーに、非常識な(傲慢な)態度で生産をさせている可能性は極めて高いように思う。そしてそれが、マイコンとパワー半導体のリードタイムの長期化につながっているかもしれない。

 前掲のロイター通信記事でも『半導体メーカーの多くは、自動車メーカーが半導体のサプライチェーン(供給網)の仕組みを理解せず、コストやリスクを共有しようとしなかったことが、今回の危機の大きな原因だと見ている』という記載がある。半導体がなければ自動車がつくれないことが明らかになった今、自動車メーカーが半導体メーカーに対する態度を改めないと、今後もクルマの減産に悩まされることになることを警告したい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)