自動車の生産には、例えば3月に必ずピークがあるというように季節的な変動がある。そこで、季節的な変動要因を除いた自動車の減産を次のように算出した(図4)。
まず、2016年から2019年までの毎月の自動車の平均生産台数(以下、平均台数)を計算する。図4の上図の青い折れ線グラフがその平均台数を示す。次に、同じ図に2020年1月から2022年6月までの自動車の生産台数をピンクの折れ線グラフで書いてみた。この2本の折れ線グラフの差が実質的な減産台数ということになる。
そこで、その差を図4の下の図に書いてみた。すると、2020年2月から自動車の減産が始まり、その減産が最も大きくなったのは同年5月の40.9万台であることがわかった。その後、減産は徐々に解消していき、同年9月にはプラス1.9万台に回復した。つまり、コロナによる自動車需要の“蒸発“は完全に解消したことになる。
ところが、同年10月以降、再び自動車は減産となり、2021年に入ってもその減産は解消されず、上下動を繰り返しながら減産は大きくなり、同年9月に40.3万台と、コロナで需要が“蒸発”したときと同じ水準まで落ち込んだ。その後、2021年末に向かって減産幅は小さくなっていったが、2022年に入ると三度、減産台数は大きくなり、毎月14~30万台の減産台数で推移している。
この2020年10月から2022年6月の長期にわたる自動車の減産が半導体不足によるものである。では、一体どのような半導体が不足しているのだろうか?
2022年8月7日の日本経済新聞に『半導体逼迫 ピーク越す』という記事が掲載された。その記事には、各種の半導体の逼迫がまだら模様のように進んでいること、しかし自動車用半導体の逼迫は続いていること、特にMicro Controller Unit(MCU、通称マイコン)とパワー半導体のリードタイム(納期)が長期化していること等が記載されていた。
この記事を基に、マイコンとパワー半導体のリードタイムをグラフにしてみた(図5)。マイコンのリードタイムは通常6~10週(平均8周)であるが、2021年10月に16~52週(平均28週)、2022年2月に24~99週(平均44周)、2022年6月に24~66週(平均45週)に長期化している。
一方、パワー半導体のリードタイムは通常6~10週(平均8周)であるが、2021年10月に10~48週(平均29週)、2022年2月に10~60週(平均37周)、2022年6月に26~61週(平均42週)に長期化している。2022年6月時点でマイコンは平均45週、パワー半導体は平均42週も待たないと納品されない。1年が52週であることを考えると、マイコンとパワー半導体は、「ほとんど手に入らない」と言ってもいい。したがって、いまだに自動車が減産を強いられている原因は、マイコンとパワー半導体のリードタイムの長期化にあると言えるだろう。
しかし、なぜマイコンとパワー半導体のリードタイムがこれほど長期化するのだろうか?
2022年8月3日のロイター通信記事『アングル:半導体不足、自動車メーカーとの力関係に地殻変動』(https://jp.reuters.com/article/chip-car-idJPKBN2PA07V)の中に気になる記載がある。その記載を以下に紹介しよう。
『<突然、親友に>
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の魏哲家・最高経営責任者(CEO)は、最近のイベントで、半導体不足が深刻化するまで自動車業界の幹部から電話をもらったことは一度もないと打ち明けた。