といって東急電鉄が引き受けるかというと難しいところだ。京急蒲田~大鳥居間のように大手私鉄どうしで競合する区間が開業した例は、戦前はともかく近年では見られない。それだけ地域寡占が進んでいるのだ。となると、事業主体の第三セクターが営業主体も兼ねるというのが現実的であろう。
京急蒲田~大鳥居間の建設にはもう一つ課題がある。国の交通政策審議会は東急電鉄、京浜急行電鉄の2社と相互直通運転を行うとの構想を練っているが、実は両社の線路は左右2本のレールの幅を指す軌間が異なっているのだ。軌間は東急電鉄が1.067m、京浜急行電鉄が1.435mと36.8cmもの差が生じている。
異なる軌間を直通するには車両側か線路側かで対処しなければならない。車両側では、車軸に取り付けた車輪の位置を動かして乗り入れ可能としたフリーゲージトレインの導入が考えられる。しかし、国内ではまだ実用化されていないうえ、新空港線のような通勤路線で多数の車両が1日に何度も車輪の位置を動かせるかどうかも未知数なので、フリーゲージトレイン導入はまず無理だといってよい。
線路側での対策としては3本のレールを敷いて2種類の軌間に対応させる三線軌条が考えられる。青函トンネルとその周辺の区間とで、北海道新幹線の列車と在来線の海峡線の列車とを通すために敷設された三線軌条が有名だ。新空港線の軌間を東急電鉄側、京浜急行電鉄側どちらに合わせるかというと、乗り入れ先の多さから東急電鉄側となり、三線軌条は京急空港線大鳥居~羽田空港第1・第2ターミナル間4.6kmに敷くこととなる。
新空港線の構想では、三線軌条への改築費用をだれがどのように負担するのかは検討すらされていないし、そもそも京浜急行電鉄が空港線への乗り入れを認めるかどうかすらも明らかになっていない。加えて、線路を三線軌条に改めるに当たり、期間は不確かながら、一定の間、列車を運休とする必要がある。これだけの犠牲を京浜急行電鉄が負担する道理は果たしてあるのだろうか。結局のところ、大鳥居駅では京急空港線と新空港線との乗り換えをしやすくする構造に改めるのが現実的な方策となりそうだ。
以上をまとめると、東京都は予測された数値はもとより、関係者間の調整が難しいと予測される点も新空港線の建設に消極的になっていた理由かもしれない。とはいえ、輸送需要自体はあり、有意義な事業で採算性もあることも確かだ。今回の合意で事実上、大田区による「区営地下鉄」として開業を目指すこととなったのもうなづける。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)