新空港線に慎重な姿勢を見せてきた東京都は、東京メトロの新線計画となる有楽町線豊洲~住吉間4.8kmの延伸(以下、有楽町線延伸)、そして南北線品川~白金高輪間2.5kmの延伸(以下、南北線延伸)には積極的に後押ししている。2022年3月28日に建設が国から認められた2つの地下鉄の建設費は有楽町線延伸が2690億円、南北線延伸が1310億円で、東京都は建設費のおよそ4分の1となる計1000億円を負担するという。有楽町線延伸、南北線延伸とも国の交通政策審議会が見通しを新空港線と同時に発表しているので、比較してみよう。
旅客輸送密度は有楽町線延伸が1日当たり10万3200人/日から10万5400人/日、南北線延伸は同7万3300人/日から7万5800人/日であった。新空港線と比較すると有楽町線延伸は2.2倍から2.3倍、南北線延伸は1.6倍から1.7倍あり、新空港線は少々分が悪い。 費用便益比は有楽町線延伸が2.0から2.1、南北線延伸が1.2であった。新空港線は有楽町線延伸と同程度で南北線延伸を上回る。
なお、大田区は独自の費用便益比を求めた。数値はさらに改善されて2.0だ。開業年営業損益比は有楽町線延伸が2.1、南北線延伸新設が1.6となった。やはり有楽町線延伸と同程度で南北線延伸を上回る。
累積資金収支黒字転換年は有楽町線延伸、南北線延伸とも25年から26年だ。新空港線は両地下鉄の延伸と比較すると7年から9年長い。東京都はこの点も疑問視していたのかもしれない。なお、大田区は新空港線の累積資金収支黒字転換年を17年と試算した。国の交通政策審議会と比べると半分の期間と極端な数値となったが、実現すれば新空港線は大変有望な地下鉄となる。
新空港線本来の構想である矢口渡~大鳥居間4.0kmの全線が開業すれば、有楽町線延伸、南北線延伸と比べて分が悪かった数値も改善されるかもしれない。国の交通政策審議会は全線開業を果たした際の予測値も公表しているので紹介しよう。
まずは建設費で1800億円となり、線路1km当たりの建設費は450億円となる。旅客輸送密度は6万0400人/日から6万1000人/日、費用便益比は1.9から2.0、開業年営業損益比は2.0、累積資金収支黒字転換年は32年だ。旅客輸送密度は改善されたが、それでも有楽町線延伸は1.7倍、南北線延伸は1.3倍から1.6倍それぞれ新空港線を上回る。他の数値が劇的に向上していないのは苦しいところだ。
なお、京急蒲田~大鳥居間を建設するとなると新たな課題の発生が予想される。どの鉄道会社が営業主体となって旅客輸送を担当するかだ。
矢口渡~京急蒲田間の場合は先に触れたように東急電鉄が有力で、しかも同社も乗り気だという。羽田空港へのアクセスという新しい役割が同社の路線に加えられるのだから悪い話ではない。営業主体となると、建設費の償還を担当する事業主体の第三セクターに年間数十億円程度の線路使用料を支払うこととなるが、よほどの高額な金額でもない限り、同社は受け入れるであろう。
一方で京急蒲田~大鳥居間では京浜急行電鉄が営業主体となるのが筋だ。けれども同社にとって新空港線にそうメリットはない。京急空港線の利用者の多くは同社の本線を介して品川駅方面から行き来していると見られる。京急空港線大鳥居~羽田空港第1・第2ターミナル間の利用者数は新空港線の開業によって増えるかもしれない。だが、新空港線へと流出する利用者の動向次第では京急空港線京急蒲田~大鳥居間で減る利用者の数のほうが多いとか、本線と合わせた平均乗車距離の短縮により、利用者数は増えても営業収入は減少するといった事態も考えられる。そのうえで新空港線の線路使用料を負担しなければならないとなると、京浜急行電鉄が営業主体となる保証はない。