「全ロシア投票」と名付けられた改憲国民投票は、改正案のすべてを一括して問う形で実施されていた。もし、日本で改憲が問われる場合も、どうせ似たような形になるのだろう。そしてロシアでは、新型コロナウイルス感染症の流行が収まらない中であるにもかかわらず、約78%もの賛成で改憲案が承認されていた。
改憲騒動を間近に控えている私たち日本人として、特に反面教師として意識すべき点は、基本的人権である思想や言論の自由、集会の自由などを定めた条文があるにもかかわらず、完全に空手形となっていることだ。
2020年7月の改憲以前から、国内反体制派の政治家(反プーチン勢力)や報道機関に対するプーチン政権の弾圧は熾烈を極めていたが、ウクライナへの軍事侵攻以降はさらに過酷になり、政権や軍を批判する自由な報道は禁止され、活動停止に追い込まれる報道機関が続出。軍事侵攻に反対する市民のデモは治安当局により、殴る蹴るといった力任せの暴力で弾圧されている。その法的根拠とされる前掲の「偽情報流布防止法」(裏切り者処罰法)は、1925年の日本で共産主義者を取り締まるために制定され、太平洋戦争を目前に控えた 1941年には、国家の方針に従わないという理由で「非国民」を弾圧する法的根拠にもなった「治安維持法」(1945年の太平洋戦争敗戦で廃止)を想起させる。ロシア国民にしてみれば、自国の憲法に安心しきっているうちに騙されたのと大差ない。
憲法とは概ねの場合、その国の国家権力や政治権力を縛り、独りよがりな暴走や、国民への圧政を戒めるためのものである。しかし、全然そうではない国もある――ということを決して忘れずに、自国の改憲騒動に臨みたいと思う。
検証の結論は、その国の国民にとって、憲法の条文は弄らないほうが無難である――ということになりそうだ。
(文=明石昇二郎/ルポライター)
●明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表
1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。
1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。
ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。
フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。