ソニーグループが電気自動車(EV)事業へ本格参入する。米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES」の会場で、吉田憲一郎会長兼社長が記者会見して発表した。EV事業を担う新会社を今春設立し、量産化を検討する。新会社の社名はソニーモビリティ。本社は日本に置き、販売方法などはこれから詰める。国内の大手電機メーカーが、EVの完成車の量産の検討を表明するのは初めてのことだ。
吉田社長は「車の価値を『移動』から『エンタメ』に変える」と語る。EV参入を通じてモビリティー(移動)産業を変革するビジョンを描く。車を移動の道具から進化させ、エンタメを楽しむ空間へと変貌させる、というのだ。ソニーの強みである画像センサーや映像・音響技術、コンテンツを結集する。“ソニー・カー”は、「走るスマホ」だ。
ソニー・カーの登場がEVの大競争時代の幕開けを告げる。日本自動車工業会は1月27日、豊田章男会長(トヨタ自動車社長)と三部敏宏副会長(ホンダ社長)の正副会長による記者会見をオンラインで開いた。
ソニーなど自動車以外の企業がEVに参入する動きに関連して三部副会長は「新たなプレーヤーが加わることで、われわれも切磋琢磨することになる。お客様に喜んでいただける商品や新しいモビリティーの開発によって社会の活性化に貢献できるので、新規参入は歓迎したい」と語った。さらに、豊田会長は「ソニーさんが本格的に自動車に入ってこられるなら、自工会にも入られるのかなと。お待ちしています」と述べた。
米アップルの参戦もささやかれるなか、ソニーは自社ブランドの販売に向けて先手を打った。というのも、2000年代からのソニーの長期低迷期はアップル抜きには語れないからだ。ソニーはヘッドホンステレオ「ウォークマン」を発売して、人々の音楽の聴き方を一変させた。だが、携帯型音楽プレーヤーの牙城はアップルがダウンロード式の「iPod」を投入したことで崩れた。スマホでもアップルの「iPhone」に太刀打ちできずソニーは敗れた。
雌伏10余年。21年4月、社名をソニーグループに変更し、祖業のエレクトロニクス事業を展開する中間持株会社がソニーの名前を引き継いだ。One Sonyの大方針の下、完成品を切り売りすることからリカーリング(継続課徴金)型ビジネスへの転換を加速し、事業をまたいだシナジーを引き出していく。
スマートフォンの課徴金プラットフォームを確保する戦いでもアップルに敗れた反省を踏まえ、ソニーはリカーリング型ビジネスに軸足を移したのだ。ソニーの吉田憲一郎社長は1月5日、ラスベガスでの共同記者会見で、「EVについてもリカーリング型の事業モデルを検討している」と明らかにした。
同席した川西泉常務は「(家庭用ゲーム機の)プレイステーションや(大型ロボットの)アイボのような顧客と長くつながる世界を、モビリティーでもつくりたい。ハードウエアを売って終わりではなく、ソフトを通じて5~10年にわたって車を進化させる環境をつくる」と抱負を語った。
プレイステーションは、ネットで対戦するには有料サービスであるプレイステーションプラスが必要になる。こうした月額料金の安定収入が、ゲーム事業を下支えしている。ソニーのEVが、アップデートやカスタマイズを前提とするのであれば、顧客との新しい接点が生まれることになり、EVはリカーリングビジネスになり得るとの読みを、ソニーの首脳陣はしているのだ。
ゲームで復活したソニーは“ソニー神話”を葬ったアップルにEVで雪辱を果たすことができるのか。