EVの世界地図はどう変化するのだろうか。先行する米テスラを追って、トヨタや独フォルクスワーゲン(VW)の世界の自動車大手、ソニーやアップルなどの異業種参入組との三つ巴の戦いが繰り広げられることになる。
“台風の目”は異業種参入組だ。自動車業界では完成車を製造する大手メーカーを頂点に、その下に部品メーカーが連なる垂直統合モデルが主流だった。EVで独走する米テスラも垂直モデルを採用している。一方、ソニーはEVの製造を他社に委託する水平分業モデルを採る方針だ。EVの製造はオーストリアのメーカーに委託する。
自前の工場を持たないファブレスでスマホの圧倒的な勝者となったアップルの“アップル・カー”も水平分業となる。アップルが製造を委託する自動車メーカーの名前が取り沙汰されている。新興のEVベンチャーASF(東京・千代田区)は開発・設計に特化したファブレス企業で、製造は中国企業に委託している。
中国の国営通信社、新華社は1月9日、国有自動車メーカー広西汽車集団と日本のスタートアップ企業のASFが、配送用小型EVの開発と製造で提携したと報じた。両社はラストワンマイルと呼ばれる短距離の配送や狭い範囲での移動に適した配送用小型EVを開発し、中国で製造、日本で販売する。22年12月に量産と販売を始める計画で販売台数は30年までに30万台を超えるとしている。
ASFは物流大手のSGホールディングス傘下の佐川急便向けに軽自動車仕様のEVを開発する。2人乗りで1充電当たりの走行距離は200キロメートル以上。価格は100万円台後半。今秋に佐川急便の営業所に納車される予定だ。佐川急便は30年までに集配用として使う約7200台の軽自動車をすべてEVに切り替える予定だ。
ASFの飯塚裕恭社長は家電量販店ヤマダ電機(現・ヤマダホールディングス)副社長からEVベンチャーに転じた異色な経歴の持ち主。畑違いの業界からのEV挑戦ということで話題をさらった。「車は家電になる」。飯塚社長は自動車の未来をこう見通す。
かつて日本の家電業界はテレビが世界を席巻する家電王国だった。しかし、水平分業を駆使する中国勢の台頭で、日の丸家電はあっという間に衰退していった。携帯電話を見れば話は簡単だ。スマホのiPhoneで参入した米アップルは生産を台湾の鴻海精密工業に委託し、ソフトウエアやデザイン・設計で圧倒的な強さを発揮した。他方、日本勢は劣勢に立たされ、携帯電話から相次いで撤退した。
アップルに限らず、世界のIT大手はEVを目指すとみられている。「走るスマホ」ともいわれるEVへの参入が相次ぐ状況はスマホの黎明期と重なる。水平分業を武器にファブレス経営の異業種からの参入組が、垂直分業の自動車メーカーの経営を揺るがすことになるかもしれない。
トヨタの豊田社長の21年末のコペルニクス的転回が政官財界を驚かせた。豊田氏がこれまで否定的だったEVに転進すると言い出したからだ。「EVに後ろ向き」と評されてきた同氏は21年12月14日、東京・台場のショールームで「世界のEV販売目標を2030年に350万台に増やす」と宣言した。「車載用の電池の開発に2兆円を投じる」とも発言、業界他社の首脳は唖然となった。
トヨタは記者会見でEVのSUVやセダンをフルラインでズラリ並べた。自動車専門紙の記者は「タレントのマツコ・デラックスのアドバイスだと聞いた」という。豊田氏とマツコは「レクサス」の販売店でたまたま会って意気投合。マツコのテレビ番組に豊田社長が何度も出演するほど親しい、といわれている。章男社長にマツコの助言があったという話は、真偽は定かではないが、次のような話が流布している。