中野区、奇抜すぎる図書館が物議…ツタヤ図書館インスパイア系、10mの高層書架

「建築家の自己満足でしょう。発注者が、このようなデザインはお願いしていないと言えば、建築家はデザインを変えます。私たちがまず行うのは、専門家・設計者がやりたがる吹き抜けの阻止です。

 理由としては、第一に空間利用の効率上、無駄が多すぎることです。少しでも収蔵量を多くして、利便性を高めたいというのが司書の本能です。使えない、利用者の手が届かない壁は無駄です。第二に冷暖房の効率が悪く、光熱経費がかさみます。上部から扇風機を回すなどと言いますが、それも無駄です。

 あんな書架はモニュメントではありませんか。冗談にしか思えません。よほど財政が豊かで、専制的に思い通りにできるならともかく、切り詰めながらの運営が常です。意味がわかりません。

 私たちは、本棚は6段までにしようと考えてきました。利用者が無理なく手が届く範囲がいいからです。特に、日本は地震が多いので、書架から本が落下しても大事にはならないようにしないといけません。地震の揺れにも耐えられて、本が落ちないようにストッパーとして専用のテープを張ったりする工夫をしましたが、そうすると滑らなくて書架整理などには不都合でした。それでも、落ちても大事に至らないことが重要だと思います。

 大型の本は書架の下のほうを使う。子供のスペースでは、さらに低くしようと考えると、収蔵量は減ります。そのため、利用できる書架スペースが必要となります。

 吹き抜けはやめて、地道に、本来の資料で見せるやり方にすべきです。まして売れ残りの図書を買って、使えもしないところに(大量に)並べるなんて、バカの極みです」

 CCCが運営する通称・ツタヤ図書館は、公共図書館であるにもかかわらず人が多く集まる賑わい創出を優先して、本来の図書館機能をないがしろにしているのではないかとの批判が絶えない。

 当サイトでは4年前、山口県周南市の徳山駅前図書館で、2000万円を使って9メートルの高層書架に中古の洋書を張り付ける計画を進めていることを報じた(『ツタヤ図書館、お飾り用の読めない洋書購入に巨額税金投入…高さ9mの棚に固定』)。すると、同記事が出た直後からネット上で非難の声が殺到。その後、CCCと周南市は計画中止を発表し、壁面に地元アーティストのデザインによる本のイラスト壁紙に変更した。

 だが、それでもツタヤ図書館の集客力を見習おうとする自治体や受託企業は後を絶たず、高層書架にしたり、燦々と太陽光が書架に降り注ぐ図書館も出てきている。

 そのようなトレンドのなかで、中野区があえて超高層書架を導入したのは、それだけ専門職の意見が通りにくくなっているからだろう。

 現在、7館ある中野区立図書館は中央も含めてすべて、民間企業が運営を担当しているという。都内でも、地域館は指定管理にしても、図書館行政の司令塔となる中央館だけは直営という自治体が多いなか、中野区は完全民間委託なのは興味深い。行政が専門職を育てる場を手放してしまうと、運営能力はどんどん失われていくと考えるのは、果たして筆者だけだろうか。

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

【※1】11/9時点での回答。この後、中野区教育委員会子ども・教育政策課は11/11に公式サイトを更新し、以下のような安全対策を行うことを公表した。「超高層書架は危険」と批判されたことを受け、ツタヤ図書館のような「中身がカラのダミー本を設置する」とした区の行き当たりばったり対応には、再度、怒りの声が上がり始めている。

○展示物については、紙及び発泡スチロール等の素材で作成します。

○各階上層部分については、書架として認識可能なように本のダミーを設置します。こちらも紙及び発泡スチロール等の素材で作成し、固定します。

○吹抜書架向かいのフロア側については、落下防止ネットを設置します。

中野区公式サイトより)