恒常的に定員割れしているような私大は、典型的ないわゆる「Fランク」で、誰でも入れる偏差値の低い大学という誤解もある。本来は河合塾の「入試難易度一覧」で35の最低偏差値にも満たない大学をFランクと区分けしたにすぎなかったが、語句がネットなどで独り歩きして「誰でも入れる大学」だから「フリー」というふうに誤解が生まれた。
それなら志願者と合格者はほぼ同じということになるはずであるが、個々の定員割れの私大を見ると、全学部の志願倍率が1.0を切ることは少ない。倍率が1.5~2.0倍前後と比較的高い学部が多く、やはり看護系などが目立つ。
たとえば東京・八王子の東京純心大学などは、首都圏でありながら都心から遠く、立地もイマイチなこともあって、全学的には定員割れが続いている。しかし、看護系学部は比較的競争率も高く、入学定員充足率も高い。地方でも長野市郊外の清泉女学院大学などは、2019年新設の看護学部が、本部と異なる長野駅前のキャンパスという立地条件もあって志願者数も多い。
看護師は国家試験に合格すれば、どの学校を出たかよりスキルやコミュニケーション能力が重視される職業で、地域社会からのニーズも高い。最近は男子受験生が増えている大学もある。
また、以前は定員割れだったが、地域貢献で受験生の認知が広がり、志願者が回復した例もある。有名な例は共愛学園前橋国際大学だ。1999年に短大から改組・共学化してスタート。ミッション系で特待生制度が充実しており、2010年度から全学生と教職員にアップルのiPod touchを配布するなど、その先駆的な試みが注目された。
特に全国で名を知られるようになったのは、その地域貢献活動だ。数年前に「地(知)の拠点整備」COC+のプロジェクト(地方創生の中心となる「ひと」の地方への集積が目的)で、私大では東北学院大学と並んで共愛学園前橋国際大学の取り組み「めぶく。プラットフォーム前橋」が、最終評価で最高ランクであった。地元自治体の要求に応え、参加する地元企業の数も多い。ちなみに最高のSランクは42大学中の12大学で、ほかの10大学は地方の有力国立大学である。朝日新聞出版「大学ランキング」の「全国の学長が教育面で評価する大学」で、同大は全大学の中から4位に選ばれた。
また、松本大学は、地元に密着したアウトキャンパススタディで注目され、受験生を集めている。たとえば観光ホスピタリティ学科では、昨今のインバウンドブーム以前から、地元の松本城を訪れた外国人の観光客に英語で観光ガイドをする活動をしてきた。そのためには英語力だけでなく、地元の歴史や文化の知識を身につけなくてはならない。彼ら彼女らが卒業して、地元の観光産業の担い手になることが期待された。創立の理念に「地域貢献」をうたい、長野県と防災や健康づくりで包括連携協定を締結するなど、具体的な活動が可視化されて、定員割れを起こさず、受験生の人気をキープしている。
九州で定員割れの常連校であった長崎ウエスレヤン大学は、2021年に鎮西学院大学と改称し、政治学者の姜尚中氏が学長に就任した。姜氏は「地域貢献型の大学として九州のフロントランナーとなり、グローバルな世界に羽ばたく人材を育てたい」と抱負を述べた。
地方私大にとっては、まさに「地域貢献」がキーワードなのだ。
定員割れの私大が増加した原因のひとつに、コロナ禍がある。というのも、日本人志願者の減少を海外からの外国人留学生(以下、留学生)で補充してきた私大が、少なからずあるからだ。