この9月に公表された日本私立学校振興・共済事業団の私立大学志願者動向調査によると、入学定員割れの私大が277校で全体の46%に達した。日本全国の私大の半数弱が、入学定員を充足できなかったということになる。
また、私大全体(597校)の入学定員49万5162人に対して、入学者が49万4213人と929人の欠員が出た。全私大入学定員充足率(入学者/入学定員)が99.81%と100%を切ったのは、同事業団が調査を開始してから初めてである。
別に入学定員より入学者が少ないからといって何が問題なのか、という見方もある。私大は入学金や授業料が収入の6割前後を占めるという学生納入金依存度が高い収入構成になっており、ほかに国および地方公共団体からの私学助成などもあるが、それらはわずかである。だから定員割れになると学生からの学費納入金が減り、収入減に直結する。
しかし、収入が減ったからといって、企業のようにリストラには走れない。教員が減り、設備投資をカットすれば、教育水準が維持できないからである。収入減に見合った大学教育を続ければ、進路指導をする高校教師や高校生の保護者からの評価は下がり、受験生離れを誘発し、さらに入学希望者が減って学費納入金(収入)が減る、という悪循環に陥る。
ただし、この入学定員充足率が大学の実力を比べる決定的な評価基準というわけではない。大学にとって入学者は「お客さん」のようなものであるから、恣意的に増加させることはできないが、基本的に入学定員は大学自身が決められる。減らすのは文部科学省の認可もいらず、比較的自由にできる。
だから、どうしても入学者を確保できない地方の私大の中には「入学者/入学定員」の分母にあたる入学定員を小さくして、充足率を人為的に上げる例も出てきた。これは結局、大学規模を小さくすることであるから、私は「大学のスモール化」と呼んでいる。
逆に、入学者が入学定員を大幅に超過していた大都市圏の私大では、分母を増やして超過率を下げるために、文科省に対して入学定員の増員を要請した。法的基準内なら増員を認めざるを得ないケースも出てきた。大幅超過の私大には補助金不交付や新学部などの認可申請などで不利になるので、超過率を下げるため、収入減につながる入学者数抑制より、入学定員を増やす作戦に出たのだ。
このように入学定員充足率は、入学者はともかく入学定員は人為的なものなので、定員割れの数字だけでその大学を評価することはできない。たとえば、福島県の奥羽大学は薬学部の収容定員を中心に数年間で増減させている。大学経営の判断で、文科省の基準に合いさえすれば調整可能なのである。
ただし、数年続けて定員割れの私大が近くに複数ある場合は、その地方の18歳人口の減少という地域的な要因もあるだろう。また、個別の大学では受験生の志望にマッチしなくなったことによる学部変革が必要と認識されつつも、その財政的なゆとりがないなど、さまざまな要因が考えられる。
入学定員充足率は90%台で、たまたまその年だけ100%を切ったようなケースでは、合格者のうちどの程度入学するかという入学手続き率の読みを誤って欠員が生じることもあり、基本的に問題ない。
ただし、数年間、入学定員率が80%を切ると1~4年間の収容定員充足率も低くなり、その結果、学費納入金も少なくなるので大学財政の収支が悪化する。存続するために「大学のスモール化」をして教育関係の支出を減らせば、教育力の低下を引き起こして受験生離れを生み、最終的に消滅しかねない。しかし、大学数が少ない地方では、大学の存続が地域の活性化に必要な条件になっていることも多い。