AUKUS、米英豪の連携が世界中に波紋を呼ぶ理由…仏のみならずASEANもショック

 また、アメリカにとっても、中国との紛争地域に近いオーストラリアが原子力潜水艦を保有する意義は大きい。中国が海洋進出をしている南シナ海と東シナ海は核保有国がなく、アメリカさえいなければ、中国にとっては反撃のリスクが少ない「安全地帯」でもあったわけである。

 オーストラリアが今後、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を保有することにでもなれば、中国にとって南シナ海が「安心して侵略できる地域」でなくなり、地政学的な大転換を果たす可能性すらある。豪米がフランスとの関係を悪化させても原子力潜水艦の製造を進める裏には、オーストラリア周辺海域の安全保障力を高めるためだけではなく、中国に対して「これ以上の狼藉を繰り返すのであれば、豪米英は核配備も含めてアグレッシブに立ち向かう」というメッセージを送る目的もあると考えられる。

日本のとるべき態度

 AUKUSは「ファイブアイズ」(米英加豪NZ)のうちの3カ国が参加している。ファイブアイズはもともとUKUSA協定のもと、各国の諜報機関が機密情報を共有するための枠組みであり、AUKUSはその枠組みを生かしているので、大した労力をかけず高度な機密情報共有が可能だ。

 日本はアメリカとは同盟国、オーストラリアとイギリスとは準同盟国と言ってよい関係にあり、イギリスのボリス・ジョンソン首相も述べたように、ファイブアイズに日本も参加すべきだという議論が最近、出始めている。AUKUSは進化した「中国包囲網」である以上、日本も参加に前向きであるという姿勢はとるべきだろう。ただ、そのためにはファイブアイズに参加できる高度な情報共有をとれる体制をつくる必要がある。

 また、AUKUSの安全保障体制に核が含まれている以上、日本もこれまでのように核にまつわるものを禁忌しておけばいいというわけにはいかない。日本が核兵器を配備することはないにしても、米英豪の原子力潜水艦などを支援する体制づくりができる法整備を行う必要はあると考える。
(文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家)

白川司(しらかわ・つかさ) 国際政治評論家・翻訳家。世界情勢からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。著書に『議論の掟』(ワック刊)、翻訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)ほか。「月刊WiLL」(ワック)、「経済界」(経済界)などで連載中。メルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」も好評。