日本のトラックメーカーのEV化が遅きに失したとはいえ、脱炭素に踏み切るには理由がある。もちろんその第一の理由は50年CO2ゼロであり、その世界的な動向を菅政権が追認したことだ。第二の理由は、欧米各国のトラックのEV化である。国内のトラックメーカーとの提携関係も含めて早晩、輸入トラックのEV化が進むことは目に見えている。国内勢としては立ち向かわないわけにはいかない。
そうしたなか、フルラインでEVトラック・バスを揃える中国BYDは、EVバスで日本に攻勢をかけている。すでに沖縄、京都、福島、岩手、東京、千葉等にEVバス「J6」を販売している。全世界では6大陸に5万台のEVバスを販売している。EVトラックの日本への上陸も視野に入っているはずである。
ちなみに日野自動車は、上記のBYDのバスのOEM供給(相手先ブランドによる生産)を受けた「ポンチョZEV」を22年に発売する。ベースは上記のBYDのJ6で、乗員は30人、105キロワット時のリチウムイオン電池を搭載し、モーターの最高出力は161キロワット(219馬力)、航続距離はおよそ200キロメートルと、路線バスとしては十分な性能である。
そこに「いすゞ」が加わり、トヨタの先導で始まった商用車の共同開発連合でトラックの電動化に取り組む。22年には小型のEVトラックを開発、発売する。主に宅配用途で、航続距離は100キロメートルほどである。また、ダイムラー傘下の三菱ふそうトラック・バスは、すでに17年にEVトラックの「eキャンター」を投入している。
35年以降、エンジンの新型車の販売を禁止するEUは、大型トラックのCO2排出量を30年までに19年比で30%削減するとしている。そうしたEUにはずいぶんと後れを取ったが、日野、いすゞの参入で日本のトラックのEV化もようやくスタートラインに着いたようだ。
しかし、メーカーの遅い動きとは裏腹に、トラックのユーザーである運輸業界の脱炭素の動きは速い。国内メーカーの動きの遅さに業を煮やしたか、すでに海外メーカーのEVトラックに目をつけている。
その背景には、政府の規制=炭素税と、ESG投資という脱炭素の金融業界からの要請もある。脱炭素化に遅れると、運輸業界は融資を受けられなくなる。当然、モノ言う株主からの脱炭素の要求も強まっている。遅い国内メーカーのEV開発を待ってはいられないのだろう。
SGホールディングスグループの佐川急便は、中国の広西汽車集団から軽のEV商用車を7200台採用する。自社の環境対応のアピールと今後の炭素税、ESG対応と思えるが、消費者の近くを走る宅配車のEV化の宣伝効果は大きい。また、運転手の大幅な疲労軽減も図れ、効果は大だ。
EVは運転の疲労が少ない。とくに停止、発進の繰り返しが多い街中のトラックでは、EV化されるとドライバーの疲労は格段に軽減される。労働環境の改善という副次効果は想像以上だろう。
広西汽車集団の軽トラックの納車は22年9月である。130~150万円といわれる国内の軽商用車(エンジン車)と同等の価格というから、軽商用車を販売するダイハツ、スズキ、三菱も腰を落ち着けてはいられないはずだ。
宅配等、市街地で使われる商用車は、軽自動車に限らず、走行距離が短く、走行経路も一定している。これは市街地の商用車をEVに替えた場合、少ない量の電池で十分に使えることを示している。電池が少なく、走行距離も短ければ充電時間も短くて済む。また、充電設備も簡単なもので済むことを示すものだ。車両価格は安く、維持費も安い。EVは商用車に向いているのである。