問題発覚前の6月29日の株主総会で、株主から「企業の根幹を支えるところで不祥事が出ている。不祥事のデパートみたいになっている」と痛烈に批判された。今回の検査不正にしても6月中旬の社内調査で明らかになっていたのに、株主総会の場で公にしなかった。翌日にかけて全国紙が相次いで報道すると、30日の夜には、三菱電機はあっさりと事実を認めた。
株主軽視だけではない。経営陣の責任感の欠如や企業統治への意識の低さが如実に表れている。社外取締役が機能していない点も東芝と同じだ。検事総長、外務事務次官が社外取締役だが、名前だけの存在。顧客や株主の利益を守れなかった責任は重い。企業統治に問題があることは明らかだ。
事業部門の利益が会社全体や顧客のそれよりも優先され、自浄作用が働きにくい縦割り組織の弊害が出ている。家電から防衛装備品までさまざまな製品を各地の事業所で開発・製造している。事業所ごとに専門的な人材が求められ、分野をまたいだ異動は限られていた。人事交流のなさも浮き彫りにされた。
各事業部は組織の生き残りのため、利益追求に追われた。その結果、好業績を達成した事業部門のトップは1億円を超える役員報酬を手にした。三菱電機は事業部門を率いる執行役に1億円を超えるプレーヤーが多いことで有名だ。21年3月期は7人の執行役が1億円以上の役員報酬を得ている。
【1億円以上の役員報酬を得た執行役】
氏名 職務 報酬総額
杉山武史 代表執行役社長CEO 2億円
漆間啓 専務執行役輸出管理、経営企画、関係会社担当、CSO 1億円
宮田芳和 専務執行役FAシステム事業担当 1億800万円
松本匡 専務執行役ビルシステム事業担当 1億800万円
織戸浩一 専務執行役インフォメーション事業担当 1億100万円
福嶋秀樹 常務執行役社会システム事業担当 1億300万円
高澤範行 常務執行役電力・産業システム事業担当 1億300万円
三菱電機や三菱自動車工業、三菱マテリアルの不祥事が起きるたびに指摘されてきたのが「度し難いまでの隠蔽体質」(三菱グループの長老)だ。明治時代に政商から出発し、財閥を形成した三菱は政府から戦車から航空機まで一手に引き受ける軍需産業として巨大化した。
「三菱は国家なり」。戦後、三菱重工業は防衛産業の雄として君臨してきた。明治、大正、昭和、平成、令和の5代にわたり国家とともに歩んできたというのが三菱のプライドである。スリーダイヤは大三菱が誇るシンボルマークなのである。
国家相手のビジネスだから情報は徹底的に秘匿した。「すべての情報を隠蔽する」という三菱重工のDNA(遺伝子)をしっかり受け継いだのが三菱電機である。三菱電機は日本の防衛の一角を担う。昨年12月に実施した航空自衛隊のシミュレーションに関する調査研究事業の競争入札で77円で落札した。新型ミサイル探知の調査研究を委託する昨年12月の競争入札も22円で落札した。
防衛省が研究を進める最新鋭の「高速滑空ミサイル」に関する情報が昨年、三菱電機へのサイバー攻撃で漏洩した。高速滑空ミサイルは超音速で複雑な軌道を飛行し、敵の防衛網を突破するとされる。防衛省は島しょ防衛強化のため18年度から研究を始めた。三菱電機はハッカーが標的にする国防企業なのである。秘密主義の傾向が強いのは、その表れだという指摘もある。