三菱電機は7月2日、鉄道車両向け空調設備などの不正検査問題で、杉山武史社長(64)が「組織的な不正」と認めたうえで引責辞任を表明した。7月中をメドに後任を選ぶが、取締役にとどまるかどうかは未定である。社外の弁護士を委員長とする調査委員会を設け、一連の不正検査の実態解明を進める。9月に調査結果と再発防止策を公表するとしている。
柵山正樹会長(69)は6月1日、経団連副会長に就いたばかり。山西健一郎特別顧問(70、元会長)からバトンタッチして三菱電機の企業枠を死守したわけだ。企業枠を守っているのは金融機関や日本製鉄、三菱電機など数は少ない。
「組織ぐるみの不正」を認めた以上、柵山氏が経団連副会長を引責辞任しなければ責任を取ったことにはならないとの厳しい指摘もある。「杉山社長の辞任は、柵山会長を守るためのトカゲの尻尾切り」(三菱電機関係者)という、うがった見方まである。
長崎製作所(長崎県時津町)での不正検査は、6月14日に社内調査で判明していた。少なくとも1985年頃から空調設備で行われ、出荷前検査の際、顧客との契約と異なる方法で検査したり、検査を省略したりしていた。鉄道のブレーキなどに使う空気圧縮機でも15年ほど前から不正が続いていた。
過去に出荷した空調設備約8万4600台(納入先は約80社)、空気圧縮機約1500台(約20社)が不正検査の対象になった可能性がある。不正検査では、架空データを自動で生成する専用プログラムが使われた。杉山社長は「組織的な不正行為だったと認めざるをえない」と述べたが、検査数値を偽装する手口は1990年に始まったことが記者会見で明らかにされた。
【三菱電機製「空気圧縮機」の使用状況】
鉄道会社名 保有台数 鉄道会社名 保有台数
東急電鉄 132台 京浜急行電鉄 50編成
西武鉄道 112台 東京メトロ 確認中
近畿日本鉄道 28台 阪神電気鉄道 確認中
小田急電鉄 71編成
(注:台数は空気圧縮機の数。編成は使用している車両編成)
社内調査でこの問題が発覚してから、すでに半月以上がたっている。十分な調査期間があったにもかかわらず、会見では「安全性に問題がない」との説明が強調され、肝心の不正がなぜ、どういう経緯で始まり、35年間もの長期間発覚しなかったかについての説明は歯切れが悪かった。「(外部弁護士による)調査委員会で調べる」との発言に終始した。
この間、三菱電機は記者会見を開こうともせず、消極的な情報開示に徹してきた。不祥事のたびに再発防止を約束してきたが、過去の教訓が生かされない内向きの企業体質が改めて露呈した。
品質をめぐる不正が発覚するのは初めてではない。杉山氏は18年4月に社長に就いた。それ以降、今回を含め計6件の検査不正を発表している。18年12月、子会社のトーカン(千葉県松戸市)でゴム部品の品質データの偽装や省略が行われた。
これをきっかけに会社で調べたところ、19年8月、子会社の菱三工業(兵庫県神戸市)でも原子力発電所やエレベーターに使われる特殊な産業用の鉄製品の不正が判明した。20年2月には三菱電機本体の半導体製造拠点パワーデバイス製作所(福岡県福岡市)で、顧客と約束した検査を行っていなかったことがわかっている。
不正が判明するたびに、ほかにも問題がないか「全社の再点検」を実施したものの、35年に及ぶ今回の不正は見抜けなかったという。歪みは労務面でも表れている。14~17年に社員5人が長時間労働などで労災認定され、このうち2人が過労自殺した。19年にもパワハラで新入社員が自殺している。