5万円でできるのに1千万円も費用投下?“過渡期のAI”導入がDXを遅らせる!

 こんな過渡期のAIは、出来れば使わないほうがいい。先述のブロックチェーン活用による企業間承認フローのDXなどで、ビジネスが桁違いにスピードアップ、爆速になると期待されます。似たようなエピソードは、

・10万円給付金の手続き10倍効率化

・ドイツのように前年の確定申告額に原則比例するロックダウン保証金を出すワークフローを迅速に確立

・マイナカードに代わる安全なスマホアプリをオンラインで365日24時間取得・設定

といったことの実現への期待となっています。待ったなしの課題として、多くの国民が認識したのは素晴らしいことです。ワクチン接種についても冗長過ぎる事前チェックを廃し、電話やウェブで数百回リトライするなどの無駄を排し、オンライン問診を含めて最高の効率と品質を達成する理想のワークフローを作る必要性を、国民の大多数が痛感していることでしょう。命に係わることですから!

 さて、先ほどの長電話の続きです。

私:「お客さん、AI開発はやめましょう!」

お客様:「え―っ?」

私:「65インチから43インチくらいの安い大型モニタと、軍手してても楽にポインティング操作できる大玉トラックボール、そして、巨大なエンター・キー (笑)を買ってください。既存のPCを流用すれば、予備部品含めて、システム全体で5万円でお釣りがきます」

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「そして、Excelに簡単なマクロを組んで、自分のIDカード(QRコード)をかざしたら自分用のチェック表が巨大画面に表示されます。「携行品持ったか?」の各欄には、その携行品の画像とともに「No(無)」と表示されてるので、その種類の数だけ、ビックエンターキーをぶん殴れば確実にチェック完了です。画像のおかげもあって、持ち出してなければ叩けないので、取りに帰って再チャレンジ。途中までのチェック結果は自動保存されており、他の人が別IDで割り込んでも、再びQRをかざせばチェックを再開できます。1秒に5回は叩けるので携行品が20種類あっても、4秒で完全なチェックが完了。いかがでしょうか?」

お客様:「す、凄い。凄すぎる。今まで、癖字やカスレ文字を読み取るのに肩凝らせて大変な苦労をし、それをExcelに一生懸命入力していました。その苦労を人間より高精度なAI(私:「このノイジーなデータは無理ですよ~」)に肩代わりさせようとしていたのですが、そんな必要ないのですね? Excelマクロですが1000万円以下で組めますか?」

私:「原価1万円。儲けを入れてもせいぜい3万円か5万円でしょう。IDカードの認証の部分は出来合いのものをもってきて、APIでエクセルから呼ぶようにすれば新しく作る必要ありません」

お客様:「どうも、どうも、本当にありがとうございました。目から鱗でした」

私:「いえいえ、どういたしまして」

結局どう気をつけたらよい?

 結局、「AI使うなんて愚の骨頂ですよ!」と強烈にアドバイスして、2時間の通話を切りました。売り上げゼロで、代表取締役の貴重な時間を費やし、機会コストのリスクを冒(おか)しました。もう2年も経ったので時効ということでごめんなさい!>メタデータ社の株主の皆様。

 いやー、こうやって正直にお話をして、ご発注を断っていると、他社では不可能と言われた、あるいは実際に失敗した難しいAIの開発を、少ない残りご予算で遂行という辛い道を歩むことになっちゃいます。後進のベンチャー企業さんには、決してお薦めはしませんが、まぁ、うちは本業はAIによるテキスト分析アプリというパッケージの開発ですので、その余力でできる範囲で上記のような社会貢献を果たそうとする次第です。

 まとめますと、まずアナログ情報を認識する系のAIは、旧来の非効率な業務フローを前提としているので、多くは過渡期のAIであること。そして、そこを一足飛びに超えて(leapfrog!)、次世代のDXに容易に移行できそうなら、過渡期のAIなどつくってはいけない!「社会実装」などと上から目線なことを言ってAIをありがたがらせ、本格的なDXを遠ざけるような罪作りは厳に戒められねばならなかったということであります。