なぜ2.9兆円で買収された「Slack」がDXの中核なのか?デジタルワークプレイス

 それよりも、画像、動画、音声をいくら貼りまくっても大丈夫な容量のほうが、オフィスの広さに該当しそうです。標準の有料ユーザー企業の場合、1人当たり11GBだったかのストレージが提供されます。Zoom会議を含む画面キャプチャーの場合、45分間の動画が百数十MBくらいに圧縮できることも多いので、ここ数年、あまりストレージ容量を気にせずSlackを使っています。

 さて、Slackによる仮想オフィス環境でのコミュニケーション、コラボを、リアルのオフィスと比べてみましょう。この写真は、日本企業で典型的な、担当者が島型に並び、その島を横から眺めるように部課長のデスクがにらみをきかせているかたちです。ちなみに米国では平社員も個室が多いです。

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 リアルのオフィスでお互いの顔が見えれば確かに安心感はあるかもしれません。しかし、数十人の間で、前述のSlack上のような、打てば響くようなコミュニケーションができているでしょうか? できているように感じるのは、ただの錯覚ではないでしょうか?

 標準の有料プランではメンバー1人当たり月々1000円程度です。これで、365日24時間、マイペースでみんなテレワークしつつ、密なコラボができる仮想オフィスが確保できる。50人分で月々5万円の利用料は、その人数を収容できるオフィス不動産賃料より確実に安いでしょう。Slackがあれば、少なくとも50%、仕事内容によっては100%テレワークにすることができます。これによるリアル不動産の賃料節減効果よりはるかに安く、質的にも量的にも従来を凌駕するコラボが実現可能です。

 今後、数割増しの料金で10倍のストレージ(記憶容量)を用意してくれれば、多くのユーザー企業がそれに飛びつくことでしょう。可能ではないかと読みます。こんなことは、リアルの不動産では不可能。筆者が経営するメタデータ社でも、10年かけて数千冊の紙書籍を電子化した電子図書館をもっていて、きちんと貸出し手続きした上で、遠隔で読めるようにしていますが、床面積ゼロでたかだか数十GBのストレージで知識共有できるのは素晴らしいことです。今後の法整備にも期待します。

 少し長くなりました。次回は、コロナ対応の業態転換、ワークフロー改善が求められたりするなか、急激に状況が変わる有事のインフラとしてSlackが極めて有効であることを示したいと思います。PDCAに代わるOODA(観察:Observe、情勢への適応:Orient、意思決定:Decide、行動:Act)というキーワードを用いて論じる予定です。

(文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)