将棋叡王戦をドワンゴが手放したワケ…ニコニコ動画業績不振、ABEMAへのスタッフ移籍

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10月29日14時から東京の将棋会館で開催され、ニコニコ生放送でも録画配信された、日本将棋連盟・佐藤康光会長の会見前のテロップ。(画像はニコニコ生放送より)

 10月29日、将棋の八大タイトルのひとつ、叡王戦の主催が、“ペコちゃん”でおなじみの不二家へと移ることが発表され、藤井聡太二冠の活躍などもあり注目が集まっている将棋界のニュースとして大々的に報じられた。しかしそのウラには、凋落著しかった前主催者側の事情もあるとされ、業界関係者にとっては「いたし方ない」との思いも強いという。

 もともと叡王戦は、「ニコニコ動画」や「ニコニコ生放送」でおなじみのドワンゴの主催で、2015年に誕生した将棋の一般棋戦のひとつ。2017年の第3期叡王戦から8つめのタイトル戦に昇格したばかりで、日本将棋連盟に支払う契約金の額による序列は、竜王戦、名人戦に次ぐ第3位(推定1億2500万円)。10月20日に行われた豊島将之新叡王の第5期就位式で、このドワンゴが主催から降りることが発表され、業界に激震が走る。将棋連盟と主催者がカネを巡って揉めたことはこれまでにもたびたびあったものの、主催者がみずからタイトル戦の主催を降りるなど、通常ではあり得ない事態だからである。

 以下、日本将棋連盟の佐藤康光会長とドワンゴの夏野剛社長が、この就位式で述べた挨拶を引用する。

「来期の叡王戦に関しましてお知らせがあります。第6期からは今回をもって叡王戦の主催者は交代となります。ドワンゴ様は伝統と格式のある将棋界に常に新しい風を入れていただきまして、さまざまな形で貢献され感謝しております。叡王戦に関しまして一区切りではございますが、また、何かとお世話になることもありますし、引き続きよろしくお願いいたします」(佐藤会長)

「ドワンゴはかれこれ10年将棋の支援をさせていただきました。電王戦のころはまだAIと棋士が闘っていただけるっていうことだけで話題になるようなところから、今やそれが当たり前になって、ネット民のなかでも将棋人気がこれほどまで定着するというところまでできたことを非常に誇りに思います。将棋という世界で我々のような企業が支援させていただく機会を与えていただいたことを感謝いたします。10年間やってまいりましたけど、これからは主催という形ではなくなりますが、ネットの世界でも将棋を支えていく動きの中の中心の一社として、ドワンゴは頑張っていきますのでよろしくお願いいたします」(夏野社長)

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ニコニコ生放送で配信された、10月20日の豊島将之新叡王の第5期就位式における、夏野剛・ドワンゴ代表取締役社長の挨拶の様子。(画像はニコニコ生放送より)

ドワンゴ主催の叡王戦は、8大タイトルのなかでも“いちばん新しい”

 将棋のタイトル戦を、序列順に以下に記してみよう。

・竜王戦(読売新聞主催、野村ホールディングス特別協賛)
・名人戦(朝日新聞、毎日新聞共催、大和証券グループ協賛)
・叡王戦(第5期まではドワンゴ主催、第6期からは不二家主催となり、序列は6位に)
・王位戦(新聞3社連合、神戸新聞社、徳島新聞社共催)
・王座戦(日本経済新聞社主催)
・棋王戦(共同通信社主催)
・王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社共催)
・ヒューリック杯棋聖戦(産経新聞社主催、ヒューリック特別協賛)

 ご覧の通りドワンゴは新聞社・通信社以外では史上初のタイトル戦主催者であり、「ニコニコ動画」を生んだドワンゴらしく、第4期まではニコニコ生放送が独占でネット配信。第5期からはABEMA将棋チャンネルでも配信されるようになっていた。

 そこへきての連盟、ドワンゴの両者による「ドワンゴ、主催から降りる」の発表である。上記の通り両者ともに感謝の言葉こそ述べたが、なぜ急にタイトル戦の主催を交代することになったのか、その理由は聞かれなかった。その詳細は、10月29日の記者会見で正式に説明されるのだろうと誰もが思っていた。