今回あらためて本サイトよりことの経緯についてコメントを求めると、不二家側からは以上の回答が得られた。主催となるまでにそれなりの期間がかかったということは、上記将棋ライターのコメント通り、ドワンゴ側の撤退表明がかなり早い段階で連盟側に伝えられていたことがうかがえる。
一方のドワンゴ側からも、広報部より以下のコメントを得られた。
「これまで将棋ファンの拡大および将棋界の発展を掲げ取り組んでまいりましたが、この度、その一端を担い役目を果たすことができたと考えました。同時に、ドワンゴでは昨年より事業再編に伴うコンテンツの選択と集中を進めていることも重なり、検討の末、今回のタイミングで叡王戦の主催撤退に至りました。叡王戦の主催者としての役割は終わりましたが、今後とも形を変えて将棋文化の発展に貢献していきたいと考えております」
これは、10月20日の夏野社長の会見コメントとほぼ同様の内容といえるだろう。実際のところ、ドワンゴ側にはどのような事情があったのだろうか。
2014年のKADOKAWAとの経営統合後しばらくは飛ぶ鳥を落とす勢いだったドワンゴだが、その主力事業だった「ニコニコ動画」は、月額550円の有料プレミアム会員の減少に歯止めがかからない。2015年には一時250万人を超えたプレミアム会員は、現在は150万人を下回ろうかという勢いだ。
2019年2月に代表取締役社長に就任した夏野剛社長は「不採算事業の整理とコストの見直しで、今年度中にプレミアム会員数の回復を実現したい」と語っているが、実は親会社であるKADOKAWAの今年3月期決算を見ると、webサービスの営業益は前年の27億円の赤字から25億円へと黒字回復を果たしている。
ただし、コロナ渦で巣ごもり需要が望めたはずの今年4~6月期のwebサービスの売上高は、前年の65億円から52億円に減収。夏野社長が描く新たな収益の柱は「ニコ動」でも「ニコ生」でもなく、“国産YouTube”として有料会員数が今年120万人を突破した総合コンテンツプラットフォーム「ニコニコチャンネル」にシフトしているのかもしれない。そのためにも、10年をひとつの節目として、叡王戦を含めた将棋コンテンツからの一時撤退が必要だったのではなかろうか。
すでに第6期叡王戦は不二家主催、レオス・キャピタルワークスとSBI証券の特別協賛で、ABEMAによる単独配信という形で開幕した。冒頭で述べた通り、主催は一転して、今年創業110年を迎える老舗菓子メーカー、不二家だ。
不二家のペコちゃんは誕生から70年という節目の年。不二家の創業家は藤井二冠と同じ名字の藤井家。さらに、協賛するレオス・キャピタルワークスが運用するひふみ投信は、“ヒフミン”こと加藤一二三九段と同じ名前だ。
10月31日に行われた第6期叡王戦の初戦段位別予選(四段戦)は、藤井聡太二冠と同じ18歳で、プロになったばかりの最年少棋士・伊藤匠四段の公式戦デビューであった。伊藤四段は杉本和陽四段(29)と対局したが、101手で敗れデビュー戦を白星で飾ることはできなかった。