西村 お亡くなりになった場合は、葬儀費、逸失利益、被害者本人の慰謝料および遺族の慰謝料が支払われますが、1名につき3,000万円が限度額となっています。後遺障害による損害は、身体に残った障害の程度に応じた等級によって、逸失利益や慰謝料などが支払われますが、等級別に1名につき75万円から4,000万円の支払い限度額が定められています。
――自賠責保険には、支払い限度額があるんですね。死亡や重篤な症状ほど、被害者の方の身体的・精神的な被害を考えると、やはり任意保険である民間の自動車保険の加入の必要性を痛感しますね。任意保険からの支払額はどうなるのでしょうか。
西村 先ほどご説明したように、自賠責保険により支払われる保険金を超える額に対して、対人賠償保険から保険金が支払われます。対人賠償保険の賠償限度額が無制限の場合、算定された損害額から被害者の過失分を引いた額が支払われることになるでしょう。
――加害者が保険に加入していない場合は、どうなりますか。
西村 被害者は、加害者に直接損害賠償請求をしたり、加害者が任意保険、自賠責保険のいずれにも加入していない場合は政府保障事業へ請求できます。また、車同士での事故でケガをした場合に、被害者ご自身が加入されている人身傷害保険や無保険車傷害保険(対人賠償保険を契約していないなど賠償資力が十分でない他の自動車との事故で、運転者や同乗者が死亡または後遺障害を被った場合に保険金が支払われる)から保険金が支払われます。詳しくは損害保険会社にお問い合わせください。
――加害者の補償はいかがですか?
西村 万が一飲酒運転の被害者になってケガをしたり、物を壊されてしまった場合は保険金が支払われますが、飲酒運転の運転者自身のケガやその車の損害には、保険金は支払われません。
――どこの損害保険会社も同じでしょうか。「うちの代理店は地域では知られた存在だから、頼めばなんとかなる」と思っている方もいます。
西村 基本的にはどこの保険会社も同じ取り扱いです。詳細についてはご契約の損害保険会社にご確認ください。また、保険金を支払うのは代理店ではなく、損害保険会社です。
――では、飲酒運転事故により同乗者が亡くなったり、ケガをした場合も同じ扱いですか?
西村 通常、同乗者は事故の被害者となりますので、故意または重大な過失がない限りは、人身傷害保険や搭乗者傷害保険で補償されます。ただし、道路交通法では「何人も、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない」と規定されています。したがって、運転者が飲酒していることを同乗者がまったく知らないというケースは考えにくい以上、同乗者も道路交通法上の責任を問われるでしょうし、場合によっては故意や重大な過失ありとみなされることも、あるかもしれません。?
――飲酒運転をした加害者が保険に加入していれば、被害者に支払われることはわかりました。でも、加害者にはなんの経済的負担もないのでしょうか。
西村 加害者が自賠責保険と任意の自動車保険に加入していれば、被害者には保険金が支払われるため、飲酒運転事故による加害者の経済的負担は少ないかというと、実はそうではありません。加害者自身が被ったケガの治療費や車両本体の修理費などについては、自動車保険はもとより、医療保険などからも保険金が支払われません。
――飲酒運転の罰則は?
西村 飲酒運転には行政処分や道路交通法の罰則があり、交通事故を起こすと処分や罰則がさらに重くなります。行政処分では、酒酔い運転は免許取消、欠格期間は3年で、さらに死亡事故を起こした場合は、欠格期間は7年です。道路交通法では、酒酔い運転は5年以下の懲役または100万円以下の罰金が適用されます。また、他人を死傷させてしまうと刑法に定められている危険運転致死傷罪が適用(飲酒運転等でケガを負わせた場合、20年以下の懲役)されます。