IT予算の8割が維持管理費…「デジタル政府」が延々と進まない本質的理由と3つのポイント

 現状では、制度改正したために受けられる給付や減税を気づかずにいるケースも多いが、利用者の年収や年齢、家族構成や配偶者の年収、振込み先の銀行口座などを事前に登録しておけば、年収や年齢を条件とする手当が制度改正で新設された場合、給付額の通知や銀行口座への振込みなどをスムーズに行うことができ、社会保障関係の給付や税制上の還付を含め、申請漏れで本来は受給可能な手当を受給し損ねる事態も回避できる。

 もっとも、それを可能にするためには、利用者である国民に、デジタル政府の専用サイトに必要な情報を事前に登録してもらう必要がある。日本では2016年1月から「マイナンバー制度」が動き始めているが、プッシュ型・行政サービスにより「確実な給付」を実現するためには、銀行口座を含む個人情報とマイナンバーを紐付けする必要があり、それら登録を義務付けるとともに、事前登録しなければ給付しない検討も必要だろう。

 ハンコの廃止も重要だが、デジタル政府を構築する目的がこうしたプッシュ型・行政サービスを強化するものでなく、行政手続きの単なる電子化に終始することになれば、それは本末転倒であり、デジタル政府を構築する「本当の目的」に関する議論を深める必要がある。

国と地方の制度的な関係を整理することの重要性

 第2は、国と地方の制度的な関係を整理することの重要性である。国と地方を通じた行政サービスのうち、より住民に身近なものは地方が担っているケースが多い。このため、2000年施行の地方分権一括法により、機関委任事務は廃止、新たに法定受託事務と自治事務に整理され、国と地方の関係は「上下・主従関係」から「対等・協力関係」に転換された。

 このような状況を踏まえると、地方が担う行政サービスは、自治体間の競争を行いながら、各地方が各々の創意工夫で独自の情報システムを構築して住民サービスを提供するほうが効率的に思えるが、年金制度以外の社会保障(例:高齢者医療・市町村国保・生活保護)の運営は国と地方の双方が深く関与しており、そうとは限らない。これは、地方向け補助金等の動向からも読み取れる。

 2002年度に20.4兆円であった地方向け補助金等は、小泉政権で進めた三位一体改革の終了直後の2006年度で18.7兆円と一時的に減少したが、それ以降、地方向け補助金等は増加傾向にある。例えば、2019年度予算では、地方向け補助金等総額は27.6兆円となっている。三位一体改革での補助金削減にもかかわらず、地方向け補助金等が増加しているのは、社会保障関係の補助金が増加しているためである(図表2)。

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 三位一体改革前の2002年度での地方向け補助金等総額は20.4兆円で、そのうち社会保障関係が10.5兆円、文教・科学振興や公共事業関係等のそれ以外が9.9兆円であったが、2019年度では社会保障関係が20.2兆円、それ以外が7.4兆円となっている。2019年度では地方向け補助金等のうち約73%が社会保障関係であり、もはや地方向け補助金等の大部分が社会保障関係に対する補助金となっている。この補助金の大部分が、国が地方公共団体と共同で行う事務に対して一定の負担区分に基づいて義務的に負担する必要がある国庫負担金(例:高齢者医療・市町村国保・生活保護)である。

 財政が担う機能のうち最も重要なものは社会保障などの「再分配機能」だが、これは、再分配政策は国だけでなく、地方も国と一体となり、社会保障を含む再分配政策の一部を担っている事実を示す。例えば、地方が担う生活保護などの事務は国が強い関与を行う「法定受託事務」に分類される。このような状況のなか、再分配機能の強化を目的として、デジタル政府の構築を行うとき、国と地方の情報システムを個別バラバラに構築する意味がどの程度あるだろうか。