マンガ『腸よ鼻よ』に医師も感涙…「潰瘍性大腸炎」患者の想像絶する苦しさを描いた傑作

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安倍晋三首相の持病であり、辞任理由としても挙げられた「潰瘍性大腸炎」。大腸に炎症が起きて粘膜が傷つき、ただれたり潰瘍ができたりする。(写真はイメージです/写真提供:Science Photo Library/アフロ)

 ご無沙汰しております。アニヲタ医師、Dr.Chem(ちぇむ)でございます。

 去る8月28日、安倍晋三首相の退陣が発表されました。総理自身がTwitter等の公開情報でも言及している通り、安倍首相は以前より潰瘍性大腸炎に罹患していることが発表されており、とりわけ、2006~2007年の第一次内閣においては、同疾患の悪化が退陣の原因のひとつと発表されておりました。今回の退陣に際しても、健康面での問題が直接の原因であったと発表されております。

 2012年からの第二次政権は歴代首相の連続在籍日数を更新し、通算在籍日数と共に歴代最長を記録であったとのこと。長期に渡る在任期間の政策面での評価はさまざまですが、そうした難病を抱えながら、長期にわたって公務に就かれていたことに、まずはねぎらいの意を表したいと思います。お疲れさまでした。

 さて、ここで発表された病気「潰瘍性大腸炎」について、みなさまはどれだけご存じでしょうか。病名の通り、大腸を侵す病気であることはすぐにイメージできることと思います。しかし、その症状や、生活にもたらす影響の大きさは、おそらく、病名から想像される以上に深刻なものなのです。

難病指定もされているやっかいな病気「潰瘍性大腸炎」

 潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患と呼ばれる病気の一種で、大腸の粘膜が炎症を起こし、グズグズに荒れてしまう疾患です。こうした腸管の炎症は、細菌やウイルスの感染を伴った場合には誰でも起きる可能性がありますが、潰瘍性大腸炎の場合、そうした外部要因による引き金がなくとも炎症が起き、また、万一上述のような感染症を合併した場合にはさらに重症化してしまう、という非常にやっかいな病気です。

 日本での患者数は2012(平成24)年時点で14万3733人。年間5000人程度が新規に発症するとされていますが、発症の原因についてはいまだに詳しくはわかっておりません。厚生労働省から難病指定(旧:特定疾患)もなされており、今なお、病因の究明、治療手段の開発が途上である疾患です。

【参照】難病情報センター「潰瘍性大腸炎(指定難病97)」より

 主な症状は下痢、血便。時期や環境によって症状は改善と悪化を繰り返しますが、ひどい場合には1日10回以上も出血を伴う下痢が続き、併せて貧血も進行します。また、下痢が続くのに伴って痔などの合併症も出現するほか、長期的には大腸癌の発症リスクもあり、症状が落ち着いているときにも定期的な検査が必要になります。

 総じて、ひとつひとつの症状は想像しやすい一方で、それが長く続く場合の痛みや、生活に及ぼす影響の大変さを実感してもらうのが難しい疾患といえるでしょう。病院で患者さんやそのご家族に向けて理解を助けるための資料やパンフレットなどは存在しますが、一般の方に向けて潰瘍性大腸炎を知ってもらう機会はなかなかないのが現状です。実はこうした問題は、潰瘍性大腸炎に限らず、患者数が少ない難病、それも「がん」や「脳卒中」のようにある程度ひとくくりにして説明しづらい疾患にはどれにも付きまとっている問題なのですが。

 実際、今回の安倍総理の退陣に際しても、患者さんによる団体から、疾患への理解を促す声明が発表されてもいます。

【参照】「最近のSNS等での無理解な言動に声明」(2020.09.06 NPO法人 IBDネットワーク)

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『腸よ鼻よ』第1巻(KADOKAWA)。著者・島袋全優自身が潰瘍性大腸炎に罹患しており、その日常や入退院を描いた実体験ギャグエッセイ。マンガ配信サービス「GANMA!」にて配信中。