『ゴースト・オブ・ツシマ』世界的ヒットの勢い…書かずにはいられない圧倒的魅力

 あくまで武士らしい戦いを主とするか。それとも忍者のように手段を択ばず戦うか。そこはプレイヤーに委ねられている部分であり、仁のキャラクター性はプレイヤーの手によって完成するという見方もできます(ストーリーが変わったりはしませんが)。これは映像作品では味わえない、プレイヤーが介入できるゲームならではの楽しみ方です。

 ちなみに、この時代の武士のメイン武器は弓や槍といった射程の長い武器で、あくまで刀は護身用や、近接戦闘用のサイドアームといった位置づけでした。「弓馬の道」「海道一の弓取り」といった言葉にもそれは現れています。いわゆる「武士道」も長い太平の世で育っていった倫理観であり、本作における飛び道具なども駆使したなりふり構わない戦い方は、それはそれで当時の武士らしさがあると筆者は感じます。

随所にこめられた愛と敬意を感じる旅

 このように、細部にフォーカスすれば濃厚な時代劇らしさ、武士らしさ、日本らしさを感じられる本作ですが、トータルで受ける印象はとてもエキゾチックなものでした。本作の制作を手掛けたのは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのワールドワイド・スタジオの一つ、アメリカのベルビューに拠点を置くサッカーパンチプロダクションズです。

 この作品における対馬は、どこを見渡しても美しい色彩にあふれる島で、風は止むことなく吹き続け、輝く粒子を宙に巻き上げていきます。その圧倒的なまでの映像美を目にし続けるうちに、筆者は日本の離島にいるのではなく、和をモチーフにした幻想世界に迷いこんだかのような気分になっていきました。敵がモンゴル軍であることもその一因でしょうか。

 本作は日本の中世や、時代劇の世界を再現することを目的としているわけではなく、それらをモチーフにつくられた、より広いプレイヤーを対象にしたエンタテインメント作品であるわけです。それは、ハリウッドでつくられた西部劇と、黒澤映画に影響を受けてつくられたセルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』に端を発するマカロニ・ウエスタンの関係とも似ています。

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(C)2020 Sony Interactive Entertainment LLC.

 とはいえ、日本の時代劇の考証も作品によってまちまちで、作品がつくられた時代によって左右されるものでもあります。黒澤明の『用心棒』でも仲代達矢演じる卯之助は、着流し姿にスカーフを巻き、リボリバーを手にした大胆なビジュアルでした。筒井康隆原作、岡本喜八監督の『ジャズ大名』のような前衛的な時代劇(時代劇なのか?)もあったりするわけで、『ゴースト・オブ・ツシマ』の「らしさ」の部分だけを取り上げ、その全体としてのエキゾチックな映像美や美術について言及しないのは、それはそれで贔屓の引き倒しのようにも思えるのです。

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(C)2020 Sony Interactive Entertainment LLC.

 ちなみに本作には「黒澤モード」なる、映像を白黒映画調にするモードが存在しますが、これを使うと画面の雰囲気が一変します。白黒の映像にプレイヤー自身が思い描く色彩を投影しつつプレイできるようになるため、それまでエキゾチックに感じていた目の前の世界が、よく見知った時代劇の世界に見えてくるのです。

 本作の独特の映像美は、関わった多数のクリエイターたちが心血を注いでつくり上げたもののはず。それを惜しげもなく白黒にできてしまうのは、彼らの黒沢映画や時代劇に対するリスペクトが「本物」である証でしょう。筆者もまた、この作品を手掛けたクリエイターたちに、最大限の敬意を払いたくなりました。それは、本作についての記事を書きたくなった理由のひとつでもあります。