本作の主人公は、対馬の武士である境井仁(さかい・じん)。彼は叔父であり、後見人でもある地頭・志村とともに島の武士を率い、わずか80騎余りで襲来したモンゴル軍と対峙します。
しかし彼我の戦力差はあまりにも大きなものでした。志村は捕虜となり、仁も傷を負って倒れてしまいます。野盗の女・ゆなに助けられ、一命をとりとめた仁は、今度はモンゴル軍の陣営に単身で乗り込んでいきます。そして奮闘の末、志村の救出まであと一歩のところまで迫ったものの、モンゴル軍の総司令官、コトゥン・ハーンとの戦いに敗北。己の無力さと、武士としての戦い方の限界を痛感することになるのです。
それでも仁は諦めることなく、叔父と対馬をモンゴル軍から奪還するために、孤独な戦いを続けていきます。とはいえ、圧倒的な戦力を持つだけでなく、非道な行いも辞さないモンゴル軍に、正々堂々たる武士の戦い方だけでは勝てないことは明白。仁は敵の虚を突いて葬り去る技や、暗器を使った戦い方を編み出していきます。後の世で、忍者や隠密と呼ばれた者たちのように……。
しかしその苛烈な戦いぶりは民からは「鬼」と恐れられ、武士たちからは「卑怯者」と謗(そし)られることとなります。亡き父や志村によって武士として育てられた仁は、「己」を大きく揺さぶられるのでした。
本作は、文永の役における対馬を舞台にした、オープンワールドタイプのアクションアドベンチャーです。主人公の武士・境井仁は、広大な対馬を自由に探索しつつ、モンゴル軍と戦い、人々の頼み事を聞き届けることで、大きな目的へと向かっていきます。
特筆すべき魅力はいくつもあるのですが、最大の見どころはやはりリアルな殺陣でしょう。剣豪が活躍する時代劇のように、相手の斬撃を弾いて斬り返す、次々に打ち込んでくる複数の相手をいなす、敵の槍をかわしてすれ違いざまに斬りつけるなど、時代劇を見慣れた日本人でも納得の戦いぶりを、プレイヤーの操作によって生み出していくことができるのです。それって鎌倉時代の武士の戦い方として正確なのかって? そんな野暮なことは聞いてはいけません(笑)。
また、見た目が精巧なだけではなく、相手の種類を見て構えを使い分けると有利に戦えるといった、いかにもゲームらしい仕組みも用意されています。
さらに『椿三十郎』のクライマックスを思わせる「一騎打ち」のシステムも秀逸です。敵と対峙する緊張感、間合いを見計らって三船敏郎ばりの斬撃を浴びせる気持ちよさは筆舌に尽くしがたく、機会があるとついつい一騎打ちを挑んでしまいます。
ちなみに、PlayStation 4のコントローラーの中央部にはタッチパッドがあるのですが、戦いのあとこのタッチパッドに触れ、右にドラッグ操作すると、仁は刀を振って血を払い、鞘におさめる動作をします。これが本当にかっこいい!
じつはオートでも納刀してくれるのですが、プレイヤーの操作で行えることに気づいてからは、戦闘後の欠かせない儀式になりしました。ボタンを押すのではなく、モーション操作で行わせるあたりもじつに「わかっている」つくりで、心憎い限りです。
仁はあくまで武士として戦うことを望む人物ですが、物語が進むうちに、それは困難な道であることを理解していきます。ゲームを進めてスキルを習得していくと、彼は刀を使った戦いだけでなく、まるで忍者のような隠密行動や、弓やガジェットを駆使した奇襲など、バラエティ豊かなアクションをこなせるようになるのです。いくら殺陣が良くできていても、ひたすらに刀で戦い続けるのでは飽きも早いわけで、これらはアクセントとしての意味合いも強いのでしょう。