今回のイベントを開催する前に、庄子先生は4月から「オンライン授業を通してこれからの教育を考えようプロジェクト」を結成してセミナーを開催してきた。回を重ねるごとに参加者が増え、学校教育をさまざまな角度からみてきた団体や個人とつながり、5回目のこの日1400人近くが参加するイベントになった。しかし、このイベントのゴールはさらに先にある。
それは、新しい学校教育を実現することだ。学校再開後、「遅れを取り戻す」ことにばかり注目が集まっているが、この経験をバネに教師自身が発想を転換し、「今だからこそできること」を行い、学校教育の新しい可能性を一から探っていきたいという。
なぜなら、このままだと、遅れを取り戻すことに焦って、多くの学校で詰め込み教育が行われてしまいかねないからだ。実際、このイベント後半の分科会で同じグループだった地方の先生たちからは、
「詰め込み教育はいけないとわかっていても、2カ月できなかった履修内容をどこに当てはめようかと時間割を考えると、詰め込まざるを得なくてジレンマだ」
「文科省が学習内容を次年度に繰り越していいと言っても、迷惑をかけたくないという思いから、今年度中になんとかしようとする先生が多いのでは」
と話してくれた。これも先生の本音だろう。しかし、どこか目的を履き違えている気がしてならない。大事なのは、先生の事情ではなく子どもたちだ。
本来であれば、今年度から小学校では新学習指導要領が施行され、「主体的・対話的・深い学び」が行われていくはずだった。しかし、今やこれまでの古い教育を取り戻そうという動きの前に、そんなことは忘れ去られているようにしか思えない。
でも、AIの進化よりずっと早く、もっと強烈に、コロナは世界の経済や社会のシステムを変えようとしている。アフターコロナに社会が一変したときに、未来を創る子どもたちが力を発揮し幸せに生きていけるかどうかは、これからの教育にかかっている。3人の先生、そしてこのイベントを共催した人たちの思いも、そこにあるのではないかと感じた。
これまで多くの人たちが教育を変えようと動いてきたのを私は見てきた。一気に変えようとしても、たくさんの制約やできない理由があり、現状を少し変えるのも大変なことも実感している。でも、新型コロナによる学校休校という、考えても見なかった大ピンチは、教育のあり方を多くの人達が考える機会になったはずだ。
実際、小学生の子どもを持つ親たちからは、
「休校中、教わってもいないのに、山のような課題を出すだけで、あとは家庭に丸投げのやり方には疑問を持った」
「学校が始まっても子どもが学校にいきたがらない」
「課題をやらせようとして親子関係が悪くなった。勉強は楽しくないことだという意識を植え付けてしまいそうで怖い」
という声が聞こえてくる。
新しい教育が実現するかどうかは、上意下達の教育改革ではなく、一人ひとりが「今だからこそできること」をして事実を積み上げていくことにかかっていると私は思う。このイベントに参加した先生たち・親・教育に関わる人たちが、現場に帰って踏み出す小さな一歩がやがて大きなエネルギーとなって、日本の教育を変えていくかもしれない。そんな予感を持った数時間だった。
この数カ月、いち早くオンライン授業に取り組んだ私立中高や学習塾、探究的な学びを提供する団体、そして公立小中学校を取材してきた。詳しいことは続編に書くが、取り組んだすべての人たちが、オンライン教育の新たな可能性に気づいたと話している。