企業は、創業以来のカルチャーと切っても切れない関係にある。つまり、企業戦略は、企業風土に著しく影響される――。
「エッ、ソニーがクルマ?」
今年1月に米ラスベガスで開催された世界最大級の技術見本市「CES2020」で、ソニーは自動運転技術を搭載した電気自動車(EV)の試作車を披露した。
「私たちは、モビリティの未来に対する貢献を、さらに加速させていきます。このプロトタイプは、そうした貢献を具体化したものです」
CEO(社長兼最高経営責任者)の吉田憲一郎氏は、「CES2020」の開幕前日に開かれたプレスカンファレンスで、そのように述べた。ソニーが「CES」に出展したのは、自社開発したEVの試作車「VISION‐S」だ。一般的に、試作車の製作費は、1台1億円以上といわれる。ソニーの試作車は、驚きをもって迎えられた。
「VISION‐S」には、自動ブレーキや自動車線変更などの先進運転支援システムのほか、人や障害物を検知するカメラ用の「CMOSイメージセンサー」など数種類のセンサーが30個以上搭載されている。センシング技術やAI(人工知能)技術、クラウド技術などを活用して、ソフトウエアを継続的にアップデートする仕掛けである。
試作車開発の中心人物は、犬型ロボット「aibo(アイボ)」の開発を主導した川西泉氏だ。車両製作には、独ボッシュやコンチネンタル、米クアルコムなどがパートナー企業として参画した。車両製造の委託先は、カナダの自動車部品大手、マグナ・インターナショナルのオーストリア子会社だ。
もっとも、試作車を出したからといって、ソニーは、ただちにクルマを市販する計画を立てているわけではない。では、試作車出展の狙いはどこにあるのか。ズバリ、自動車分野への積極攻勢をアピールするためである。
ソニーのCOMSイメージセンサーは現在、世界シェア50%で首位だが、多くはモバイル向けである。ところが、モバイル向けは韓国のサムスン電子が力をつけてきており、油断はできない。
そこで、ソニーは「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」の大波を好機に、成長が見込まれる自動車分野に参入し、首位の座を確固たるものにしようとしていると見ていいだろう。
「車載向けはまだ立ち上がり段階ですが、自動運転で需要が増えれば、高性能化が求められます。自動運転のレベル3(条件付き自動運転)、4(事実上の完全自動運転)の普及をメドに、キープレイヤーとパートナーシップを組みながら参入していきます」
2月4日に開かれた決算会見の席上、代表執行役専務CFO(最高財務責任者)の十時祐樹氏はこう述べた。CMOSイメージセンサーは、自動運転車の目にあたる重要部品である。夜間や霧、逆光時など運転しにくい状況では高い認識力が求められるが、その点、レベルの高いソニーのCMOSイメージセンサーに対する期待は高い。
とはいえ、モバイル市場でシェアが高かった分、ソニーの自動車分野への参入は後れた。早くはなかった。ソニーが車載用CMOSイメージセンサーの商品化を発表したのは、業績悪化の真っただ中の2014年だ。
周回遅れだった。「後発組のソニーに勝ち目はあるのか」と、陰口を叩かれた。しかし、ソニー製のCMOSイメージセンサーはいまや、トヨタの高級車ブランド「レクサス」の最上級クラス「LS」に搭載されているように、自動車分野でも高い評価を受けているのだ。
一方のパナソニックの車載事業はどうか。そもそもパナソニックの車載事業は歴史が古く、カーラジオ、カーエアコン、カーナビなど、さまざまな装備を自動車メーカーに納めてきた。自動車分野への参入は、ソニーに比べて、何倍も早かった。家電で培ったデバイス技術の自動車分野への“転地”を決断したのは、2012年に社長に就任した津賀一宏氏である。