ソニー、自動車産業のキープレイヤーに台頭…先行したパナソニック、停滞の根本的原因

ソニーの“外向き”志向

 では、なぜ自動車分野において、ソニーを一歩も二歩もリードしていたパナソニックが今日、停滞を強いられているのか。明暗の理由はどこにあるのか。

 ご存じのように、ソニーは井深大、盛田昭夫両氏の起業家をルーツにもつ、戦後生まれのベンチャー企業だ。技術者の井深氏が発明した日本初のテープレコーダーを販売するために、希代のマーケッターの盛田氏は、伝手をたどって販路を開拓し、市場を創造した。以来、トランジスタラジオ、トランジスタテレビ、家庭用VTR、ウォークマンなど、ユニークな商品を他社に先駆けて次々と市場に送り出した。つまり、ソニーは、もともとチャレンジャブルな企業風土を特徴とする。

 ソニーは何を見せてくれるのか。あるいは、どんなサプライズを見せてくれるのか。はたまたどんな期待に応えてくれるのか。どんな“夢”を与えてくれるのかと、期待感を持たせる。

 そのソニーが、今回、冒頭で触れたように、「CES2020」にプラットフォームから新規で開発した本格的なEVの試作車を持ち込み、世界をアッといわせた。面目躍如である。その背景には、昨今のソニーの好業績があるのは間違いない。

 さらにいえば、ソニーの企業風土は“外向き”である。グローバル志向も強い。現にソニーのビジネスを支えるゲーム、映画・音楽などは、いずれもグローバル展開に成功している。

パナソニックにはショック療法が必要

 それに対して、パナソニックの車載事業は、時流に取り残されている。例えば、成長のけん引役として「高成長事業」に位置づけられていたパナソニックの車載事業は、すでに「再挑戦事業」へと格下げされた。また、車載事業のもう一つの柱である、コックピットなどの車載機器は、電池以上に問題を抱えている。

 車載機器と車載電池を担当するオートモーティブの2019年度第3四半期の業績は、売上高が前年同期比7%減の3662億円、調整後営業利益が89億円減となり、67億円の赤字だ。

 しかも、肝心のテスラ向け車載電池事業は、前述したようにうまくいっていない。テスラがEVの波をつかまえて成長を手にしたにもかかわらず、パナソニックはEVの流れに乗り切れていない。テスラとの関係づくりに甘さがあったことや、パナソニックが急成長する新興企業のテスラのスピードについていけなかったことがあげられる。

 また、パナソニックの“内向き志向”も邪魔をしているのではないだろうか。 指摘するまでもなく、パナソニックの創業者は経営の神様としてあまりにも有名な松下幸之助だ。幸之助の創業者精神がこれからも、パナソニックを支え続けることは変わらないだろうが、パナソニックは高度成長時代以来の“内向き”の企業風土を依然として払拭しきれていない。

 ソニーに比べて、明らかにグローバル志向が弱い。チャレンジ精神にも欠ける。たとえば、ドイツのソフトウエア開発会社、オープンシナジー社を買収するとともに、電子ミラーが主要製品のスペインのフィコサ・インターナショナルを連結子会社化するなど、M&Aや提携を進めたにもかかわらず、その刈り取りにはいたっていない。いま一つ貪欲さが足りない気がする。これは、テスラとの協業がうまくいかない理由と共通する。

 パナソニックが再び輝くためには、企業カルチャーを変えることが避けられないのではないか。ただ、企業カルチャーを変えるには、経営者の強い意思と同時に、社員の覚悟が求められる。パナソニックにそれができるかどうか。依然として、巨艦パナソニックは沈まないという甘えさえ感じられる。

 この際、企業カルチャーを変えるために、思い切った策に出るしかないのではないか。暴論を承知の上でいえば、パナソニックの祖業である家電部門を切り離すくらいの覚悟があってもいい。その意味で、家電部門の本部を滋賀県草津から中国に移す計画が出ているのは妥当なところだ。いまのパナソニックには、そのくらいの“ショック療法”が必要だということだろう。

(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)