さらに、総売上250億ドル(約2兆7800億円)を超える「プラットフォーム提供企業」にはプレイヤーとしての参加を禁じることも提案しています。例えば、Amazonが別業者の売り上げ動向を克明にリアルタイムに知り得る立場を利用して、類似製品を自社ブランド“Amazon Basic”で安く提供したりすることを規制するものです。Appleについても、Apple TV+でサードパーティーの作品の視聴履歴、人気ぶりをAIで解析して、似たようなスリルの展開のオリジナル作品をつくろうとしたら抵触しそうです。Netflix(売り上げが現時点では少し不足)、Amazon Primeも同様です。
日本ではどうでしょうか。公正取引委員会が行った実態調査によると、上記ウォーレン候補の提案と同様、プラットフォーム提供企業がプレイヤーとして参加する懸念も出されたといいます。こうした実態を踏まえて、日本政府は「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」を策定しました。ECプラットフォーマーに対し、手数料の一方的な引き上げなどができないよう、契約条件の開示、契約内容を変更する際の事前告知を義務付けるといいます。検索ランキング表示基準の開示や、アプリ内課金の不当な強制を禁止する内容も盛り込まれるようです。経産大臣への年次報告の義務付け、経産大臣による勧告や命令が規定されました。また、独禁法違反の疑いがあれば、公取委に対処を要請できるようにしています。
ただ、法案作成に参加した内閣官房の担当者によれば、変化の速いデジタル市場では、すべての規制を国が決めるのでなく、自主的な取り組みを後押ししたい、とのこと。果たして法案の実効性が十分かについては、議論の余地があります。良心的な企業が損をして、規制の抜け穴を探すような企業が得をすることにならないでしょうか。
GAFAを分割したら4社から会社の数が増えて、それぞれが巨大化するだけだ、との批判もあります。プラットフォーマーへの規制は必要だし、有効でしょう。しかし、本格的な対策としては、個人情報の管理の機能を剥奪し、公的機関に担わせる、というくらいやらないと、歪みや富の独占を阻止できないような気もします。
次回は、ニューモノポリー企業が世界のAI研究開発最前線でばく進する状況、その理由などを解説したいと思います。「AIの民主化」というキーワードが一時流行りましたが、その正反対の展開が起こる可能性があります。AIに特化したハードウェアや、学習用のビッグデータ(SNSやECサイト上の個人の行動履歴などはその典型です)の独占の可能性を具体的に論じたいと思います。
(文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)