水族館の入館者を3倍にした戦略の「急所」とは?

加茂水族館の積年の課題だった「強み」作りについに成功したのです。しかも、わずか15年でギネス記録、というオマケ付きで!

戦略の「急所」:クラゲを増やそう!

この水族館は、ゼロから「クラゲ」という強みを作り、お客様の「あなたから買いたい」(=この水族館に行きたい)を作りました。「クラゲという『強み』を強化していけば、入館者が増える」という「急所」をつかんだのです。

「急所」を見つけてしまえば、あとはその急所の「行動量」を増やしていけば入館者は増えます。つまりは「今日もクラゲ、明日もクラゲ、来月もクラゲ、来年もクラゲ」です。具体的には……、

『隣接した今泉漁港に採集船をもち凪の日には毎日採集に出ている』『ほぼ毎日採集を続け10年間で64種のクラゲの採集に成功した』(加茂水族館・奥泉和也氏、日本水産学会誌、2009年75巻2号)

ひたすらクラゲを増やす努力を重ねたわけです。まさに、今日もクラゲ、明日もクラゲ、ですね。それがお客様の「あの水族館に行きたい」という「買いたいを作る行動」となるのですから当然です。と同時に、その「強み」を「伝え切る」べく、クラゲの魅力の発信にも努めました。

『小学生以上を対象に「クラゲ学習会」を行っている』(加茂水族館・奥泉和也氏、日本水産学会誌、2009年75巻2号)

これなどは、典型的な「強みを伝え切る」ための取組です。

また、「クラゲを食べる会」というユニークな取組もしています。

『「人気に弾みがついたのは、2000年にクラゲの展示種数が15種類と日本一になったことを宣伝するために開催した『クラゲを食べる会』でした。クラゲの寿司やしゃぶしゃぶなどのユニークな料理を提供したところ話題となり、全国に知られるようになりました」と加茂水族館総務課の渡辺葉平さんは話す。その後も、館内のレストランでクラゲ入りのラーメンやアイスクリーム、クラゲの刺身の定食などの提供を始めたところ大人気となった』(内閣府ホームページ「水族館を救ったクラゲ」)

珍しさがあることは言うまでもありませんが、変な話、「獲れたてのクラゲ」が味わえるわけですよね。ちなみに私もクラゲラーメンをこの水族館から取り寄せていただいてみましたが、思いの外(というと失礼ですが)おいしくて、驚きました。

徹底して「クラゲ」という「急所」に絞り、「あなたから買いたい(この水族館に行きたい)」を作った結果、大人気の水族館となりました。

クラゲ水族館の追うべき指標(KPI)

クラゲ水族館の戦略の「急所」は、「クラゲを増やせば入館者数が増える」ということでした。

「急所」がわかれば、組織として「追うべき指標」であるKPIも決まります。

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「クラゲを増やせば入館者数が増える」のですから、KPIは

・クラゲの展示種数

です。「クラゲの展示種数」を組織として追いかけて増やしていけば、それがクラゲ水族館の「強み」に直結し、そして入館者数が増えるのです。

「クラゲの展示種数」というKPIを追いかけ、「今日もクラゲ、明日もクラゲ、来月もクラゲ、来年もクラゲ」と、クラゲに絞った行動を取り続けることで、見事に復活をなしとげたんです。

なぜ「展示種数」が重要なのかというと、水族館というビジネスの性質上、近隣の方々が主要顧客セグメントの1つとなるからです。つまり、リピート(また来たい)が重要になります。

「また来たい」と思っていただくためには、何らかの変化や新しいニュースが必要になります。「クラゲ」に絞っている以上、それは「新しいクラゲ(の種類)」となるでしょう。