水族館の入館者を3倍にした戦略の「急所」とは?

存続の危機にあった水族館を救い、ギネス掲載にまでつながった「クラゲ戦略」(写真:Toshi/PIXTA)
当然ですが企業にとって「売上を上げる」ことは存続をかけた大問題です。しかし、「売上を追っても売上は上がらない」と断言するのは、『ドリルを売るには穴を売れ』などのベストセラー著者でマーケティング・コンサルタントの佐藤義典さん。『顧客の「買いたい」をつくる KPIマーケティング』の著書もある佐藤さんに、戦略的な売上の作り方を聞きました。
 
今回はゼロから「強み」を作り、存続の危機から入館者を3倍にし大人気となった「クラゲ水族館」の戦略をご紹介します。
 

存続が危ぶまれる状態だった加茂水族館

山形県鶴岡市立加茂水族館は、今となっては「クラゲで有名な水族館」としてメジャーな存在となりましたが、クラゲ展示を始める前は、存続が危ぶまれる状態で、加茂水族館のホームページに掲載された「館長想い出語り12」によると、当時の館長(村上龍男氏)が家を担保に入れるような状態でした。

戦略的に表現すれば、昔は「強み」が全くなかった、ということです。

一時期ラッコが人気だったこともあり、ラッコの飼育・展示を始めるもすぐに飽きられ、入館者数は増えませんでした。

そもそも周りでラッコが人気だからと言って、自分たちもラッコを展示しても、差別化できません。差別化とは、「人と違うことをする」ことです。

閉館目前という大ピンチに舞い降りた一筋の光が「クラゲ」でした。

『入館者が9万人まで落ち込み閉館寸前だった1997年、サンゴに付着したクラゲを偶然見つけて育てたのが始まり』(2012/09/09、日経MJ、4ページ)

1997年、入館者数が史上最低を記録する中、サンゴの水槽で偶然クラゲの赤ちゃんが誕生します。このクラゲの赤ちゃんに子どもが飛びつき、大人気となったのです。

今でこそ、このクラゲ水族館が人気になったこともあり、多くの水族館がクラゲの展示コーナーを設けています。しかし当時はクラゲの展示というのは希少だったようです。そして、クラゲの人気に目を付け、クラゲの展示を増やしました。すると、入館者が増えるのです。

『入館者数が10万人を割った平成9年に始めたクラゲ類の展示が話題を呼び、初めて入館者が増加に転じた』『平成20年度はノーベル賞効果も有り19万人を越える見込みである』(加茂水族館・奥泉和也氏、日本水産学会誌、2009年75巻2号)

と、約10年で入館者数が2倍になりました。「クラゲの展示種数を増やすと、入館者が増える」という戦略の「急所」を発見したのです。

「あの水族館に行きたい」を作った戦略の「急所」

ここでいう戦略の「急所」とは、お客様の「あなたから買いたい」が一気に高まる点であり、お客様の「あなたから買いたいボタン」です。「クラゲ」がお客様の「買いたい」、すなわち「あの水族館に行きたい」を作ったわけです。

『加茂水族館は1997年にクラゲの展示を開始、評判を呼んだため種類を徐々に増やし、2001年には12種類で日本一に。07年に30種類以上になり、今年2月ギネスに申請した』(2012/04/08、日本経済新聞、朝刊30ページ)

そしてついに2012年、クラゲの展示種類数がギネス記録として認定され、自他共に認める「世界一のクラゲ水族館」となります。

何もないところから、「クラゲ」という「強み」(=「あなたから買いたい」)を作り、15年間でギネス記録すなわち「世界一」として認定されました。ギネス記録を取得した2012年に入館者数が27万人と、15年で入館者数が3倍になり、今では山形県屈指の人気スポットとなりました。