山形県鶴岡市立加茂水族館は、今となっては「クラゲで有名な水族館」としてメジャーな存在となりましたが、クラゲ展示を始める前は、存続が危ぶまれる状態で、加茂水族館のホームページに掲載された「館長想い出語り12」によると、当時の館長(村上龍男氏)が家を担保に入れるような状態でした。
戦略的に表現すれば、昔は「強み」が全くなかった、ということです。
一時期ラッコが人気だったこともあり、ラッコの飼育・展示を始めるもすぐに飽きられ、入館者数は増えませんでした。
そもそも周りでラッコが人気だからと言って、自分たちもラッコを展示しても、差別化できません。差別化とは、「人と違うことをする」ことです。
閉館目前という大ピンチに舞い降りた一筋の光が「クラゲ」でした。
1997年、入館者数が史上最低を記録する中、サンゴの水槽で偶然クラゲの赤ちゃんが誕生します。このクラゲの赤ちゃんに子どもが飛びつき、大人気となったのです。
今でこそ、このクラゲ水族館が人気になったこともあり、多くの水族館がクラゲの展示コーナーを設けています。しかし当時はクラゲの展示というのは希少だったようです。そして、クラゲの人気に目を付け、クラゲの展示を増やしました。すると、入館者が増えるのです。
と、約10年で入館者数が2倍になりました。「クラゲの展示種数を増やすと、入館者が増える」という戦略の「急所」を発見したのです。
ここでいう戦略の「急所」とは、お客様の「あなたから買いたい」が一気に高まる点であり、お客様の「あなたから買いたいボタン」です。「クラゲ」がお客様の「買いたい」、すなわち「あの水族館に行きたい」を作ったわけです。
そしてついに2012年、クラゲの展示種類数がギネス記録として認定され、自他共に認める「世界一のクラゲ水族館」となります。
何もないところから、「クラゲ」という「強み」(=「あなたから買いたい」)を作り、15年間でギネス記録すなわち「世界一」として認定されました。ギネス記録を取得した2012年に入館者数が27万人と、15年で入館者数が3倍になり、今では山形県屈指の人気スポットとなりました。