対して討論会のようなシーンは、後述するお笑い芸人のネタにも重なりますが、言葉の内容だけでなく、間やトーン、表情や目つきといった情報も汲み取った上で、ベストな表情やテキストを生成する必要がありますから、実現はもう少し先だと思われます。
しかし、いずれはZoomで会議していた相手が、実は生成AIが支援して作られた動画によるものだった。そんな未来も遠くないのです。
これまで紹介してきた生成AIの活用を考えると、お笑い芸人のネタやコントの脚本も、生成AIが生み出せるのではないか。このように考える人も少なくないのではないでしょうか。
結論から言えば、できなくもない、というのが私の考えです。
というのも、お笑いやコントのネタの面白さは、文字で示された自然言語の情報だけではないからです。お客さんの様子や空気感を芸人さんが汲み取った上で、最適なタイミングで次のトークを決める。あるいはボケる、など“間”や言葉の“トーン”が大きな要素を占めているからです。
そしてこのような間やトーンは、地域や国、個人によっても異なるものでもあります。つまり、なぜそのネタやコントが面白いのかは、単にテキストデータだけでなく、それ以外の情報が必要だということです。そのため、お客さんの脳波や表情、笑い声を測るような取り組みが補助的に重要になってきます。
ただ言えることは、面白いと感じているお客さんのデータを集めることができれば、そのデータを元に別のネタを生成することは可能でしょう。正確には、識別AIと生成AI、この2種類を使うことで実現するイメージです。
識別AIは、お客さんが笑っているかどうかを判断します。そして、識別AIで判断され適正だと思われたデータを元に、生成AIがネタを考えていく。もちろんその際には、これまで紹介してきたように「学生をテーマに3分以内で」とか、「ボケとツッコミを30秒おきに」「自分の声にあった形で」といった指示を出すことも可能です。
つまり、それぞれの芸人さんの特徴、キャラに即したネタをAIが補助的に生成することができる可能があるのです。アイデア出しの支援にもなります。
もっと言えば、ネタを披露する芸人さんはリアルである必要はありません。アバターでも構いませんし、すでにこの世を去っている人気芸人や噺家さんでも構いません。生前披露していたネタのデータはもちろん、画像生成AIもあわせて活用するのです。
一方でテーマは、現代にマッチした内容に設定する。時代を超越しながらも、最先端のお笑いを往年の芸人から楽しむことができる。このようなワクワクする未来が、実現するかもしれないのです。
興味深い研究もあります。ハーバード大学の経営大学院、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・H・ヨーマンズ氏の取り組み(*1)です。同氏は、人間の好みをより正確に予測できるのは人間か、それともAIか、といった研究をしています。
具体的には、配偶者や親友といった特定の人に対してジョークを聞かせたときに、どの程度おもしろがるかをAIと人、それぞれが予測した内容と、実際の結果を比べた事例などがあります。