「村上春樹になりたい」…AIで一体どれだけ叶うか

映画業界はこれまで、アナログ的な業務や要素が多いという特徴がありました。

しかしこれからは、生成AIのような各種デジタルツールやサービスが導入されていくことで、より良い作品が短期間で制作できるように、変わっていくことでしょう。

たとえばNetflix。これまで制作したオリジナルストリーミング動画を大量に保有していますから、これらのビッグデータを生成AIに学習させることで、他社では真似できない、公開データだけでは到底制作できないような、Netflixらしい、独自の生成AIによる作品を制作していくと考えられるからです。

Amazon Prime Videoも同様です。

個人的にはこの2社が今後、生成AIによりどのような動画コンテンツを制作していくのか、注目しています。

特に、ストリーミングの場合は100本の作品を作り、そのうち1本がヒットすればいいとの考えでビジネスを進めることができますから、少しずつテイストを変えた作品を100本、生成AIにより制作する。このような戦略が描けるからです。

TikTokで流行した動画を生成AIに学習させ、さらにバズるような動画を生成する。

このような動きも考えられます。

特にTikTokは、面白ければよいという傾向が強い一面がありますから、流行した動画は個人ではなく、生成AIが作成したものが使われやすい状況にあり、よりクリエイターが集まって、さらなる人気動画が出る可能性が高まる、というポジティブフィードバックサイクルは十分あり得るでしょう。

一方で、動画は画像を集めたコンテンツですから、1秒あたりのフレーム枚数が多ければ多いほど、時間が長ければ長いほど、コンピューターリソースを必要とします。そのため、私たちがふだん映画館やNetflixで観ているような、2時間ほどの作品全体を生成AIが生み出すような未来は、まだ少し先だと見ています。

けれども、画像の活用は積極的に進むでしょう。顕著なのはCGです。背景でCGを利用する流れは以前から浸透していますから、今後はそのような映画背景CGを人ではなく、生成AIが担う。そのような未来が描けるのではないでしょうか。

事例としては、韓国の大ヒット映画の背景の多くはCGで制作されています。『パラサイト』『イカゲーム』『愛の不時着』などがそうで、『愛の不時着』で登場する北朝鮮の平壌(ピョンヤン)の町並みは、CGで制作されていると言われています。CGやセット、ロケを適宜組み合わせるのは、もはや一般的な手法として認識されているでしょう。

主人公の2人が再会を果たす、スイスの雄大な自然のシーンは、さすがに実際に撮影しているようですが、再撮影を行った際はCGで代替えしたそうです。何度もスイスに行き撮影することは、予算、俳優のスケジュール、制作時間の観点からも難しいからでしょう。

一度撮影しておけば、後は生成AIが画像をデータとして学習し、近しい画像や別の時間帯の画像を生成してくれる。このような使い方が十分考えられます。『愛の不時着』が公開されたのは2019年で、2023年時点からすると3年以上前のことですから、すでに取り組んでいる作品があることは、十分考えられるのではないでしょうか。

オール生成AIで作られた背景の秀逸さ

すべて生成AIによる、CG背景の作品も登場しています。Netflixのショートムービー、『犬と少年』です。3分と短い作品ですが、富士山など、田舎の風景が時間帯や時代により変わるシーンが象徴的で、すべての背景を生成AIが作成しています。

なお『犬と少年』はNetflixの会員でなくとも、YouTubeで無料で観ることができますので、ぜひともご自身の目で、生成AIが生み出したCGのすごみを確認してもらえれば、と思います。