テレビプロデューサー・総合演出、ラジオパーソナリティー、番組MCと幅広い活躍ぶりで知られる佐久間宣行。2021年3月にテレビ東京を退社し、フリーランスとなって縦横無尽に活躍する彼は、まさに時代の寵児とも言える存在だ。
佐久間が番組プロデューサーを務め、オードリーがゲストとフリートークを繰り広げる『あちこちオードリー』(テレビ東京)は、オンラインライブも盛況し、第2回となる2021年の配信ではアーカイブを含めて8万4000枚以上のチケット売り上げを記録。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』は、登録者130万人を超える人気を誇り、1本の動画が100万回以上再生されることも珍しくない。
8月22日には、星野源×オードリー・若林正恭によるトークバラエティー『LIGHTHOUSE』(Netflix)の配信がスタート。10月からはオードリーとハライチがMCを務める『オドオド×ハラハラ』(フジテレビ系)のレギュラー放送が予定されるなど、さらに勢いを増している。
なぜ佐久間のコンテンツは、今の時代に支持され続けているのか。『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』など、テレビ東京の番組を手掛けてきた彼の歩みから、その理由を考えてみたい。
そもそもテレビ東京は、日本科学技術振興財団テレビ局(通称「東京12チャンネル」)として1964年に開局し、教育番組をメインとする「教育チャンネル」だった。
最後発の民放キー局ということもあり、放送開始時から視聴率は低迷。他局の視聴率競争に加わる余地もないことから、長らく「振り向けばテレ東」と言われていた。他局に比べて制作費も少ないため、王道でなく“スキマ”を狙うよりほかない。そんな土壌が、佐久間のようなテレビマンを育んだと言える。
1999年に佐久間が入社して間もなく、テレビ東京はお笑い色の強い深夜バラエティーを模索し始めていた。ちょうど『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)がスタートした2001年のことだ。テレビ東京は、若手を中心とするネタ特番『ダチョウ&さまぁ~ずの若手で笑っちゃったよ!』を立ち上げた。
当時28歳だった伊藤隆行がプロデューサーを務め、4期後輩の佐久間がディレクターとして参加。テレビ東京にはお笑いバラエティーに特化したプロデューサーがいなかったため、若手にチャンスが回ってきたのだ。
その番組オーディションで、佐久間の目を引いたのが劇団ひとりとおぎやはぎだ。この2組は、その後佐久間が初めて総合演出を務めた『大人のコンソメ』(2003年10月~2004年3月終了)、プロデューサーとして立ち上げた『ゴッドタン』と長らくタッグを組むこととなる。
とはいえ、『大人のコンソメ』に参加した当初は、先輩のスタッフたちが新人の佐久間に懐疑的な目を向けた。会議はもちろん、番組がスタートしても思うように動いてはくれず、現場の空気も悪かった。何とか信頼を得ようと、芸人1人がクイズに対する9つの答え(正解1つ、嘘解答8つ)を提示し、そのほかの芸人たちが正解を見破る「ポタージュ1/9」(後に「1/6」)という企画で勝負に出る。
首をひねるスタッフを押し切り、現場で試してみると嘘のようにスタジオが沸いた。これが突破口となり、会議や収録の空気も改善された。また初期のハネていない現場の編集にも最大限の力を注いだことで、おぎやはぎ・矢作兼から「ああいうふうに編集したんだ。あれいいね!」と信頼されるようになったという。(佐久間宣行著『できないことはやりません ~テレ東的開き直り仕事術~』(講談社)より)