ビートたけし、明石家さんま、ダウンタウンといったテレビスターに頼ることなく、伸びしろのある若手芸人と制作陣がチームとなって番組を作り上げる。そして、他局では組まれないような企画の切り口、制作の熱意こそが佐久間の持ち味となった。
佐久間が今も手がける『ゴッドタン』からも、“テレ東らしさ”は垣間見える。
同番組のヒット企画と言えば、「キス我慢選手権」と「マジ歌選手権」になるだろう。
この「○○選手権」というタイトルは、駆け出し時代の佐久間がAD・ディレクターとして参加した『TVチャンピオン』の影響が大きいようだ。前述の著書『できないことはやりません』の中で、佐久間はこう語っている。
「どうやら無意識のうちに、自分の勝負企画には大好きだった『TVチャンピオン』の定番タイトルだった『――選手権』と名づけるクセがついてしまったようです。それだけ、この番組は僕にとって宝物のような時間だったのです」
もう1つ、番組のDVD化や映画化、ライブイベント化とコンテンツの可能性を広げた点も見逃せない。これは面白い番組作りを続けるため、最初からスポンサー以外で局の利益を上げようと考えた結果だという。
「テレビ東京としては初めての試みだったけれど、お笑いブームがはじまりつつあったことや、個人がDVDを買う文化が浸透してきたことから需要があると仮説を立てて社内『第1号』を目指した。読みは当たった」(佐久間宣行著『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社)より)
『ゴッドタン』の第3弾DVDからHMVとローソンが専売するようになったことも好調な売り上げを後押しした。番組を放送していない地域のコンビニでも宣伝・販売されたからだ。
こうした佐久間の狙いは、コロナ禍における『あちこちオードリー』のオンラインライブでも功を奏することになる。「社内で最初に手がける」というモチベーションが、彼の大きな武器となったのは間違いないだろう。
何よりも「好きなものを企画に盛り込む姿勢」こそ、佐久間が手掛けるコンテンツの真骨頂だ。
『ゴッドタン』なら、レギュラー、準レギュラーの芸人やタレントはもちろんのこと、グラビアアイドルやセクシー女優、シンガーソングライターや劇団員、お笑いライブ制作会社の代表など、幅広い出演者が登場する。
また佐久間は、そうした出演者の舞台によく足を運ぶ。実際、「キス我慢選手権」で活躍した岩井秀人が主宰する劇団「ハイバイ」の公演(2013年、「て」の再演)を観に行った折、筆者は佐久間の隣席に座ったことがある。「忙しいはずなのに、本当に好きなんだな」と感服したものだ。
2019年からは『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)がスタート。かねて深夜ラジオのヘビーリスナーだった佐久間が、ラジオパーソナリティーとしても活躍し始めた。
裏方の人間が表舞台に立つべきでないと考える者も少なからずいるだろう。しかし、テレビマンのタレント化は今に始まった話ではない。1980年代には『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)のディレクター5人によるユニット“ひょうきんディレクターズ”がレコードデビューを果たし、そのうちの1人である三宅恵介が同番組の人気コーナー「ひょうきん懺悔室」に牧師役で出演していたものだ。
その後も、コメンテーターやタレントとして活躍するテリー伊藤、テレビ朝日の加地倫三、TBSの藤井健太郎など、テレビマンの顔が見えることで番組人気を後押しする流れは途絶えておらず、この文脈の中で今もっとも旬なのが佐久間だという印象が強い。
あえて違いを挙げるなら、バラエティーが「やらせ」だと叩かれる時代に、本音やリアルな感情でトークする『あちこちオードリー』を立ち上げるなど、“深夜ラジオに通ずるセンス”を打ち出したことで佐久間の発言に対する信頼度が増したことだろう。いずれにしろ、今もっとも発信力、影響力のある著名人の1人となった。