トップは「決断」ではなく「臆測」でモノを言う

間違いが判明したときに正しく修正できるトップは「まれ」(写真:ふじよ/PIXTA)
世の中の不確実性が高まっている今、あなたの会社にコストやスピード、信頼性、利便性といった点において大きな変化が起こるとしたら、どうだろうか。
 
幸いなことに変化が瞬く間に起こるということはない。つまり、注意を怠らない先見の明のあるリーダーであれば、行動を起こすべきときをちゃんと「見極める」ことができるのだ。
 
当然、変革の時代の到来に備えようと、今すぐ何らかの行動を起こしたくなる経営者も多いだろう。しかし、コロンビア大学ビジネススクールで教鞭をとり、経営戦略の名著『ディスカバリー・ドリブン戦略』を執筆したリタ・マグレイスは彼らの盲点を指摘する。
 

「臆測」だけで動くトップが後を絶たない

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デジタル化を推進する壮大な計画の立ち上げには、大がかりで野心的な他のイノベーションとの明らかな類似性がある。その特徴とは、意思決定者が確固たる事実なしで見通しを立てなければならないことだ。ともかく早急に決断を下す必要があるらしいが、そのコンテクストが不確かであるために、彼らの判断が正しいと保証するのが難しい。

この極めて不確かなコンテクストでは、それは決断というよりも臆測に近いものだろう。こうした「意思決定」にもとづいて運営される組織が、いずれ最悪の下方スパイラルにおちいるのは間違いない。

意思決定者は予測にもとづいて行動計画を立てる。その結果に関する情報が集まり始めると、ときには当初の予測が誤っていたことに気づく場合もある。それでもなお、すでに個人的な資産と(多くの場合)組織の資産を投入ずみであるために、意思決定者は当初の方針を変えるどころか、ますます必死になって推し進めようとする。こうした事態は、プロジェクトが絶対にうまくいかないことが明白になるまで延々と続く──誰かが勇気を出して打ち切りを決めるまで。

不運なことに、このように失敗に終わったプロジェクトから私たちは教訓を学べないことが多い。即座に、そのトピックは討論の対象として不適当と見なされ、それに関わったメインプレイヤーたちは姿をくらまし、残っている者もいっせいに「初めからなかったこと」のように振る舞い始めるからだ。

これは、われわれ専門家にとって相当もどかしい話である。なにしろ、そうした失敗から教訓を引き出したくてうずうずしているのだから。

けれども実は、ある程度の公開資料がわずかながらも生き残っていることもある。その1つ、BBCデジタル・メディア・イニシアティブ──最終的に何の成果も得られないまま、組織に9800万ポンド以上の財政負担をかけたプロジェクト──について考えてみよう。

BBCデジタル・メディア・イニシアティブの例

1990年代後半に現れたオン・デマンドのニュースやエンターテインメントの変化の兆候は明らかだった。

すでに2000年の時点で、ビデオ・オン・デマンドのような技術がメディア消費に変革をもたらすだろうことは、ハーバードビジネススクールのケースライティング担当者たちも当然視していた。

イギリスの公共放送BBCには、この迫りくる転換点に何らかの対応策を講じたいとの強い願望があった。その結実として2008年に生まれたのが、デジタル・メディア・イニシアティブ(DMI)というプロジェクトだ。当初の狙いは、「完全にテープレスの」デジタル映像制作のワークフローを創出することだった。