先日、私が長らくナビゲーターを務めていたNHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』の番組スタッフと話をする機会がありました。
『プロフェッショナル 仕事の流儀』とは、超一流のプロフェッショナルに密着し、その仕事を徹底的に掘り下げるドキュメンタリー番組なのですが、最近の視聴率にある変化が見られるようです。
そのスタッフが言っていたのが、「最近は、誰もが知る超一流のスターを扱う回よりも、普段あまりスポットライトが当たらない仕事をしているプロフェッショナルを扱った回のほうが意外と視聴率を取れるんですよ」ということでした。
少し意外な話でしたが、よくよく考えてみると「自分が当たり前と思ってやっている仕事」にしても、「具体的にどういうことをやっているのかということを明らかにする」ことで、他人からの思わぬ推しが生まれるということがあるのでしょう。
実は、私にもそのような経験があります。『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)という本が誕生したときのエピソードです。
私は学生時代、学年でダントツに勉強ができました。それこそ、受験で苦労したことなど一度もありません。たとえば、誰もが苦労する「暗記」があります。でも、私にはとっておきの暗記法があったのです。
それは、「鶴の恩返し勉強法」というものです。
「決して私が機はたを織っているところを見ないでください」と姿を隠し、自分を助けてくれた老爺のために、鶴の姿になって機織りをするあれです。あの鶴のように部屋にこもって集中して勉強するのです。
その勉強法とは、声に出しながら、ひたすら書いて覚えます。さらに一度覚えたテキストから目を離し、思い出しながらまた声に出して書き出していく。目で読みながら、声に出しながら、手で書きながら、まさに五感を使って暗記していくのです。
なりふり構わないこの勉強法は、とてもではありませんが恥ずかしくて人には見せられません。なので、そんな様子が鶴の恩返しに似ていることから、「鶴の恩返し勉強法」と名づけました。
後々わかったことですが、この勉強法は脳科学的にも理にかなっていました。
記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があり、短期と長期いずれの記憶も最終的に脳の大脳皮質にある側頭葉の側頭連合野に蓄えられます。
暗記ができるようになる秘訣は、いかに覚えたことを長期記憶にできるかどうかですが、私はこの勉強法で覚えたことをうまく長期記憶に移行することができていたのです。
たとえば英単語を覚えるとき、ただ目だけで単語を見て覚えていくのは難しい。でも、五感を使って勉強すると、うんと覚えやすくなります。
そのメカニズムをお伝えしましょう。
私たちが覚えたことは「海馬」という脳の部位に保存されますが、海馬は短期記憶を長期記憶に移行すべきか否かの判断を行っています。