そのため鶴の恩返し勉強法では目で読みながら、声に出しながら、手で書きながら勉強することで、視覚に加えて聴覚や触覚への刺激が直接脳へ伝わり、記憶を司る部位である海馬が刺激されて記憶が定着しやすくなるというわけです。
最終的に、何度も反復して海馬にアクセスされた記憶は「重要である」と脳が判断し、側頭連合野に送られて長期記憶として保存されるのです。
この勉強法、私にとってはごく当たり前の方法だったわけですが、あるときこの話を知り合いの編集者にしたところ、「茂木さん! それおもしろいですよ! ぜひ本にしましょう」ということになったのです。
私としては「こんな当たり前のことが本になるのかな……」と半信半疑でしたが、ふたを開けてみたらその本は50万部を超えるベストセラーとなりました。
仕事の優先順位を決めるとき、多くの人はしっかりした「To Doリスト」をつくって粛々とこなしていけばよいと、考えるのではないでしょうか。
私が意識していることはちょっと違っていて、いつも脳の中に「ゆるいTo Doリスト」を用意しておくということを実践しています。
独自のやり方ですが、紙やパソコンなどにTo Doリストを書き出したりせず、脳の中につねに変更可能なTo Doリストを用意して臨機応変にやるべきことをやるように心がけているのです。
いくらTo Doリストをきっちりつくっても、膨大な仕事を処理しなければならないので、なかなか予定通りにはいかないからです。そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
短期的なものから長期的なものまで実に多種多様な仕事があって、優先的にやらなければいけないことはひとつではなく、むしろ複雑に入り組んでいるものです。
私の場合、原稿執筆から取材や講演、学会のための論文の読み込みなど、やるべき仕事は実に多種多様です。そのうえちょっと油断すれば、また新しい仕事の依頼が舞い込んできます。
そんなときに必要なのは、現状を踏まえながらも、瞬時に「もっとも重要なこと」に目を向けること。そこで、つねに頭の中でTo Doリストのイメージを変化させていくことが肝心だと気づき、いつも脳の中にゆるいTo Doリストを用意しておくという方法を取り入れたのです。
「頭の中にTo Doリスト? 自分にはとてもムリ!」と思った人もいるかもしれません。けれども私は、これを単なる「慣れ」の問題だと考えています。
そこで、こんな習慣を身につける努力をしてみてください。
朝の就業前に、何にどれくらい時間を振り分けるか、その日の仕事を見通すトレーニングとして「あの仕事は本当にすぐやるべきか」などと脳内で段取りのイメージをつかんでおくのです。このとき、脳内To Doリストは固定したものにしないということを心がけてください。
そして、頭の中のリストを臨機応変に、ダイナミックに変えるためのトレーニングを重ねていくと、脳の中にゆるいTo Doリストを持てるようになっていくはずです。
「何と何をやるべきか」ということを、ちょっとだけ深く考える思考癖を持つことが何よりも重要です。
脳の中にゆるいTo Doリストを用意していると、未来の行動にいろいろな可能性が広がってゆき、運を引き寄せる原動力にもなり得るのです。
一度やってみるとわかると思うのですが、いつも脳内To Doリストを整理していると、朝起きてから夜寝るまで、いかに自分のスケジュールがスキマだらけかということに気がつくはずです。
つまり、時間活用の可能性が大きく広がっていくという観点からもメリットが生まれるのです。いってしまえば、「一石二鳥」の思考法というわけです。