その相手が、ホワイトボードアプリ「フリーボード」を共有してくれた。ビデオ通話でシェアされるコンテンツが空間に大きく広げられ、会議やコラボレーションが円滑に進むことを予期することができた。
繰り返しになるが、これがもし大学の授業の場合、Apple Vision Proを装着したままでも、手元にある紙のノートにメモを取ることは容易だ。普段大学の授業をやっている身からすると、ハイブリッド授業、オンライン授業などで強力な手段となりうる。もちろん、価格というハードルはあるが――。
映像体験も素晴らしいもので、部屋いっぱいどころか、視界を遥かに超えるサイズのスクリーンを配置して映画を楽しむことができる。しかも前述のように高精細なだけでなく、明るさ、発色も申し分ない。一人で楽しむホームシアターのシステムを完全に代替して余りある体験を、Apple Vision Proは提供してくれていた。
3D映画などのコンテンツもそのまま楽しめるが、通常の映画作品を見ると、もしかしたら「カクカクしている」と感じるかもしれない。映画の多くが1秒間に24コマ(フレーム)で提供されているが、頭の動きなどに追従してくる映画以外の部分が24コマよりも素早く描画されるためだ。
Apple Vision Proには、12台のカメラが内蔵されており、これらを駆使した3D写真、3Dビデオの撮影が可能だ。今回のデモでは撮影は体験できなかったが、用意されたコンテンツを見ることはできた。
奥行きのある写真やビデオで、誕生日ケーキのロウソクを吹き消すシーンは、煙が自分に向かってきて、まるで匂いまで伝わってきそうな臨場感だった。思い出の記録と再現という点で、今までの写真やビデオとは異なる体験になっている点には同意できる。
ただ、視野角は狭めで、撮影者が見ている方向を記録する、という側面が強い。それはそれで、撮影者の意図を含む追体験という意味が生じるが、空間全体を記録することができれば、より面白みが増すのではないか、と思った。
ゴーグルの右側面後方に、電源プラグが用意されている。簡単に外れないよう、捻って固定するタイプが採用されており、そこからケーブルがバッテリーパックにつながっている。手のひらサイズのバッテリーで、Apple Vision Proを2時間駆動させることができる。バッテリーが外付けとなっているため、ゴーグル部分本体の重さが軽くなっている。
また、このバッテリーパックにはUSB-Cポートがついており、ここにACアダプターから給電すれば、2時間の制限なく使い続けることができる。乱暴にいえば、デバイスとしてはMacBook Airかそれ以下の消費電力に抑えられていると予測できるため、USB-PD 30WのACアダプターやモバイルバッテリーからの給電に対応できるのではないだろうか。
Apple Vision Pro、30分という非常に短いデモ体験だったが、視覚、聴覚、触覚、体感が刺激され、非常に濃密な時間だったことを、この原稿をまとめながら改めて再認識することになった。
これまで、コンピューター、スマートフォン、タブレット、ヘッドマウントディスプレー、VRゴーグルなど、さまざまなデバイスに触れてきて、惜しいなと思う点、不安感や不快感を伴う点などを経験してきた。今回体験したApple Vision Proは、弱い部分を見せず、非常にうまくやってのけている現段階で唯一の製品化直前のデバイスだと位置づけることができた。