ディスプレーはマイクロOLED(有機ELディスプレー)で片目4K以上、合計2300万画素が目の前で広がる。切手大のスクリーンをレンズで拡大しているが、ドットを肉眼で見ることはできないほどに、極めて高精細だ。特に文字表示は滲みなく、印刷のようにくっきりと見える。
視野角は90度前後で、特に上下に若干窮屈さを感じるが、上下左右に首を振っても、カメラを通じた実空間の様子も、表示されたコンテンツも、遅延なく、また破綻なく表示される。
カメラ12台、マイク6台、そして5つのセンサーから取り出される膨大な情報量を、新開発のR1チップがさばいてくれるおかげで、遅延のない体験が作り出され、これがいわゆる「VR酔い」と言われる気持ち悪さを、発生させない理由になるのではないだろうか。
Apple Vision Proでは、内蔵しているスピーカーによって、AirPods Proなどのヘッドホンを使わなくても、豊かな空間オーディオを楽しむことができる。
しかも、視野の中に配置している場所から音が聞こえてくるが、例えばFaceTime通話の相手が表示されているウインドーを上下左右、前後に動かすと、声の聞こえ方がリニア(直線的)に変化する。さらに、自分がいる部屋の床の素材などを検知し、音の響き方も、空間に合わせている。デモはじゅうたんが敷かれた部屋で行われたが、フローリングの部屋では、音の聞こえ方が異なるのだ。
またコンテンツを楽しんでいるときは、AirPods Proのノイズキャンセリングのように、外部の音の取り込みが減る。しかし同じ空間にいる誰かに自分が話しかけると、相手の声が聞こえやすくなるよう調整される。
前述のとおり、近くにいる人が視野に浮かび上がってくるので、ゴーグル装着状態でも会話がしやすいよう、自動的に調整される。
ARアプリやARゲームなどをiPhoneやiPadで体験すると、端末自体が非常に高温になることがある。カメラが常時ONになり、グラフィックス、機械学習を含めた処理がフル回転するためだ。Apple Vision Proは、その状態を常時こなしていることになる。
しかしながら、30分のデモを終えた後であっても、端末が熱くなったり、熱がおでこに伝わってくることはなかった。M2、R1という2つのチップの熱を、ゴーグル部分の下から吸気し、上に排気する空冷システムが静かに作動し、ゴーグル内に体温以外の熱がこもることを、効率的に防いでいた。
今回のデモにはFaceTime通話が含まれていた。アップル本社の別の場所にいるスタッフからビデオ通話が着信し、応答すると、その人が視野に映し出される。相手もApple Vision Proを装着しているため、通常のウェブカムなどに映ることはできないが、あらかじめ作成しておいたアバター(Persona)が、口の動きや目の動き、手振りなどを自然に伝えてくれていた。