3月や4月は、新しいメンバーが組織に入ってくる時期だ。新しいメンバーが入ってくることは、とても喜ばしい。
しかしながら、新メンバーが組織に加わると、コミュニケーションや作業の調整など、厄介な問題が生じることがある。
当然だ。最初はお互いのことがよくわからず、いろいろと「認識のズレ」が生じてしまうからだ。言いたくもないが、ついつい上司は、次のようなことを口にしてしまうこともあるだろう。
「できる限り早くやってほしいと言ったよね?」「このやり方、誰に教えてもらったの? わからないのなら聞いてよ」「全然イメージと違うんだけど。もう一回やりなおして」――。
このように、まだ要領がつかめない新しいメンバーにイラつくのはNGだ。そこで私は、イライラせずにお互いの「認識のズレ」を埋める「ズレ取り教育」をすることを提案したい。
「ズレ取り」とは、生産工程で使われるムダ取りから着想したネーミングだ。
「ムダ取り」とは、価値を生まない動作を排除するための活動を指す。いっぽう「ズレ取り」とは、組織内に生じる認識のズレを排除する活動のこと。
受け入れる側もしっかり準備をする必要があるが、最初から完璧に認識合わせすることなどできない。特に新社会人に対してはそうだ。何もかもが新しいことだからだ。
そこで、新しいメンバーには、仕事の依頼を受けるたびに「ズレ取り」の習慣を身につけてもらう。
特に、多様性が重要視される現代においては、異なるバックグラウンドや価値観を持った人が1つのチームとして働くことが多くなっている。チームのエンゲージメントを高めるためにも、お互いの「認識のズレ」をなくし、早期に信頼関係を築くことが不可欠だ。
拙著『キミが信頼されないのは話が「ズレてる」だけなんだ』でも詳しく解説しているが、本稿では、春に新メンバーを迎えるにあたって認識のズレを取り除く「ズレ取り教育」について紹介する。
それでは、なぜ今、「ズレ取り」が必要なのか。その3つの理由を解説しよう。
1つ目の理由は多様性の時代であることだ。
現代は、さまざまなバックグラウンドや価値観を持つ人がいる。そのため、昔と違って「認識のズレ」が生じる可能性が比べ物にならないほど増えている。
特にベテラン社員は「最近の若いもんは……」と愚痴りたくなるものだ。しかし、愚痴る前に、そもそも前提として「ズレ」があるものだと認識することが大事だ。
2つ目がオンラインの時代について。
コロナ禍に入ってすっかり定着したオンラインの文化。しかし、オンライン上で意思疎通をはかろうとしても非言語的要素が少なく、相手の表情やジェスチャーを見ることができない。
このため、誤解や認識のズレが大きく生じるのだ。「ズレ取り」をしっかりしないと、お互いの「ズレ」は一向になくならない。
3つ目は、環境が激変する時代ついて、である。
最近は原材料の価格高騰、為替変動、それによる値上げや賃上げ。環境が大きく変化する中で、経営陣やお客様の考え方や方向性もその都度変化している。このため、かつてないほど「認識合わせ」の重要性は増しているといえるだろう。
以上のことから、早期に「ズレ取り」の習慣を組織に根付かせたほうがいいのだ。
「認識のズレ」が減らないと、組織の中がぎくしゃくし、エンゲージメントが下がるし、現在の組織メンバーの生産性も下がっていく。
具体的に「ズレ取り」の手順を紹介する。
仕事を依頼された側は、以下の切り口をベースに質問や確認を進めていこう。