厳しい局面ではふつうは緊張してしまって、自分の考えを上手に伝えられなくなるものです。ですが、緊張して当然という状況でも、普段どおりに話せるという人もいます。いったい、何が違うのでしょうか。
話すのが緊張する場面といえば、テレビカメラを前に話す機会などは最たるものです。数百万人の視聴者を前に話すようなものですから、緊張するのは当然です。
テレビカメラを前にすると、大企業のトップですらうまく話せなくなってしまうものです。まるで下手な役者のように、あらかじめ丸暗記しておいた原稿を棒読みで話そうとする経営者。緊張のあまり、簡単な言葉さえ何度も言い間違えてしまう経営者。話し方で失敗してしまう経営者を数多く、目の当たりにしました。
一方で、テレビカメラを前にしても緊張どころか、表情豊かに自分の言葉で生き生きと会社の魅力を訴える経営者もいました。
多くの経営者を取材するうちに、緊張してうまく話せなくなる経営者、反対に力強く自分の言葉でアピールできる経営者、それぞれに共通点があることに気がつきました。
緊張して普段どおりに話せなくなる経営者の共通点。それは「会社員として出世して、社長にまで登り詰めた人たち」でした。誰もが名前を知っているような大企業の経営者であっても、この傾向は変わりませんでした。
反対に、緊張とは無縁で話せる人は「自分で起業した人たち」でした。この傾向は起業して大きな成功を収めた経営者に限りませんでした。起業したばかりで従業員が誰もいないような会社の経営者でも同じだったのです。
なぜ、このような違いが現れるのでしょうか。私はあるとき、その理由に気がつきました。両者はテレビカメラを前にした気持ちの持ち方が、根本的に異なるのでした。
「緊張して普段どおりに話せなくなる経営者」はテレビカメラを前にして、とにかく「守りの発想」になっているのです。
インタビューの間、経営者の横には広報担当者が張り付いています。経営者の口から「少しでも何か後から問題になるかもしれない発言」があると、即座に訂正を入れてきます。
さらにいえば広報担当が訂正を入れるまでもなく、経営者の頭の中では「こんな発言をすると、取引先の機嫌を損ねるかもしれない」「社員の士気を下げるかもしれない」「マスコミに否定的に取り扱われるかもしれない」など、さまざまな危険を気にしながら、発言しているはずです。「他人から悪く思われたくない」という、いわば完全に「守りの発想」から、発言しているのです。