2022年大晦日の「第73回NHK紅白歌合戦」第2部の平均世帯視聴率は、関東地区35.3%関西地区36.7%(ビデオリサーチ調べ)で、過去2番目に低い数字となったが、この「視聴率」自体の意味が薄れつつある。
「テレビ番組」からネット動画へ、テレビ(受像器)からスマートフォンやタブレット、PCでの視聴へ、リアルタイムからアーカイブへ、視聴のスタイル、習慣が大きく変わりつつあるからだ。
例えば、昨年12月6日のワールドカップ決勝トーナメント1回戦、日本対クロアチア戦の視聴者数は、テレビ放送(フジテレビ系列)が2465万人だったのに対して、ネット配信(ABEMA)は2343万人と拮抗した(テレビ視聴者数は、平均個人視聴率20.2%について、国内の4歳以上人口より算出。ネットは、試合終了時点のABEMAの延べ視聴数。双方は定義が異なるため単純比較できるものではない点に留意)。
「通信と放送の融合」といわれるが、その実態は「通信による放送の侵食」である。
通信と放送は「伝送路」という点で絶対的な違いを有している。インターネット回線を用いて接続する通信と、放送波を用いて情報を流す放送である。
前者は双方向のコミュニケーションが可能である。分散的に管理され、ベストエフォートのインフラであり、コンテンツ提供者への規制は強くなく、「YouTube」のようなプラットフォームを通じてだれもがコンテンツを作って流すことができる。
後者は発信側から受信側への一方向のコミュニケーションである。放送局によって集中的に管理され、公共性が強く、コンテンツ提供者には業界ルールによる管理が強く求められており、プロが作成したコンテンツが限られたチャンネルから送り出される。
このように、通信と放送は、コンテンツの作り手、伝送路、受像機とそれぞれが別モノの構造にあり、管理する法律やそれをビジネスとして提供する事業者は分かれていたが徐々に垣根がなくなってきた。それが通信と放送の融合である。
しかし、ユーザーにとっては、テレビでもスマートフォンでも、通信・放送でもどちらでもかまわない。ユーザーの「観たいものを観たい」という欲求と、一方のコンテンツ提供者側の利用料や広告料を得るために「観せたいものを観せる」という欲求に対応して、市場環境は変化してきた。
この四半世紀の間に、テレビ(受像機)をスクリーンとして活用するのは同じながらも、コンテンツの伝送路が放送から通信へとシフトする動きはじわじわと広がってきた。今後その動きはさらに加速し、通信によるコンテンツ配信サービスは拡大を続ける。ユーザーも広告も、伝送路は意識せず、魅力的なコンテンツに集まる。
無料・有料別のメディアと広告市場の変化を見てみよう。広告モデルで運用され視聴者がコンテンツを無料で視聴できる民放テレビ放送(「テレビ広告」)と「インターネット広告」の市場は、2021年度の4兆1595億円から、2028年度には4兆6777億円に拡大する。