このように、各サービスの利用者には重複や誘因の関係があるが、以下の構図が読みとれる。
500万の「見えない壁」に直面しているのがいまのメディアコンテンツ業界の姿といえる。
ちなみに、広告モデルの放送サービスが少なく、有料多チャンネル放送が中心のアメリカにおいては、有料動画配信サービスであるNetflixの会員数はおよそ7500万である。日本の「4倍の人口」ながら「会員数は10倍以上」と、マーケットサイズの桁が違う。
通信環境が整う以前の時代からケーブルテレビによる多チャンネル放送が普及し、放送サービスでも良質のコンテンツの視聴にはもともとお金を支払う必要があったアメリカと、地上波の広告モデルにより無料でおもしろいコンテンツが観られるのが当たり前であった日本とでは、放送や配信を通じてコンテンツにお金を払う行為への壁の高さが違う。日本人はコンテンツになかなかお金を支払わない。
ユーザーがお金を支払わないのであれば、成長している市場であるインターネット広告からお金を取ってこられないだろうか。いま多くのメディア事業者がここに注目している。
ネットでテレビを観る「TVer」や「Paravi」には、見えない壁がちらつきつつも右肩上がりでユーザー数を伸ばしており、広告の収益も拡大している。
ユーザー自身が番組を選んで視聴するためユーザーの特定が容易で、ログイン機能によって1st Partyデータも入手できるようになり、より効果の高いターゲティング広告が可能になった。
テレビ放送との違いは、以下にある。
「特に若年層では、コンテンツ視聴の目的が他人との情報共有に主軸が置かれているため、限られた時間内でいかに多くのコンテンツを消費するかが重要」という考察もある。
動画配信とテレビ放送の広告モデルの市場は、2021年の2兆1314億円から2028年には2兆3560億円へと緩やかに拡大していく。ただしその内訳は、この間に「配信」の比率が14%から32%へと大きく拡大する。ここでも、通信が放送を侵食していく構図が見て取れる。
利便性が高い動画配信サービスだが、新しいプラットフォームをゼロから立ち上げ、そこに多くのユーザーを集めることは難しい。民放各社とも自社のプラットフォームを持ちつつも、共同運営のTVerやParaviといった配信ポータルを通じて多くのコンテンツを提供してそこにユーザーを集め、視聴率を取り、データを取り、効果的な広告を打つことで収益につなげている。
テレビ放送のマスリーチの大きさと広告効果にはまだまだかなわない部分も多いが、長期的にはメディアコンテンツビジネスの主戦場はテレビ放送から配信に移る。特にテレビ発の強いコンテンツを集めたポータルの活況がしばらく続くと見込む。
TVerやParaviがさらに拡大していくのか、それとも別のプラットフォームが誕生するのか。もしくは、ユーザーはYouTubeやNetflixのような海外プラットフォームに持っていかれてしまうのか。
ユーザーも広告も、結局は魅力的なコンテンツのあるプラットフォームに集まる。放送起点のコンテンツと配信起点のコンテンツがユーザーの可処分時間をどう奪い合っていくのか、動向を注視していく必要がある。