一方、視聴者自らがお金を支払って視聴する「有料放送」(有線、衛星、IP)、「公共放送(NHK)」、「有料配信」を合計した市場は、1兆9987億円から2兆486億円とほぼ横ばいである。
一般に広告の市場規模はGDP(国内総生産)に比例し、そのGDPは人口に比例する。日本は2008年から人口減少時代に突入しており、コンテンツの消費者が純増する時代ではない。GDPも長らく横ばいが続いている。それでも配信と放送を合わせた無料広告モデルの市場は、社会のデジタル化に伴い、「デジタル接点=コンテンツへの接点=インターネット広告への接点」が拡大することで市場は広がる。
一方、有料の配信・放送市場はほぼ横ばいである。若年層を中心にメディア接触の総量は大きく増加しているものの、お金を支払ってまでコンテンツを消費させるという行動を促すことには難しさがある。
成長率の高い有料動画配信サービスには「Netflix」「Hulu」「U-NEXT」「Disney+」、また純粋な動画配信サービスのみのビジネスモデルではないが「アマゾンプライム・ビデオ」がある。
これらは巨額の投資を背景にコンテンツを収集・制作し、グローバル規模でユーザー獲得を進めてきた。しかし、ユーザーから投資を回収すること、すなわち支払い額を高めることには苦心している様子が垣間見られ、価格設定の変更やキャリアサービス等との抱き合わせ販売、広告モデルの採用など試行錯誤が続く。急成長を見せた有料動画配信サービスだが、国内市場でもそろそろ踊り場が見えてきたようである。
配信と放送を問わず、国内の有料動画配信サービス市場の限界点はおおむね500万ユーザーという「見えない壁」がある。有料動画配信サービスでは、2021年時点でNetflixが頭1つ飛び抜け600万の契約者数を達成したが、次いでHuluが280万と推計され、U-NEXTが239万と報告されている。
有料放送サービスではスカパーJSATが297万、WOWOWは259万の契約数を有している(2022年7月時点)。ちなみに過去最大の会員数を抱えていた時期は、スカパーJSATで2012年の383万、WOWOWは2018年の291万であった。「500万の壁」を超えることができずに近年の顧客基盤は縮小傾向にある。
有料放送サービスの利用が縮小した背景には、有料動画配信サービスの利用拡大がある。双方の利用者の重複関係を分析した調査では、2017~2018年時点では「重複者」が「配信サービスのみ利用者」を上回っていたが、2019年時点では「配信サービスのみ利用者」が上回った。
配信サービスの萌芽期は配信と放送の両方を契約していたユーザーが、配信サービスの種類やコンテンツの充実が加速したこの時期に放送サービスの利用を停止したと推察されている。この背景にはYouTubeなどの無料動画配信サービスの利用拡大があり、無料動画配信サービス視聴者の増大が、有料動画配信サービス視聴者の増加を牽引したのではないかとされている。
ただし、無料ユーザーが有料ユーザー化する誘因は不明確で、無料コンテンツがさらに充実してきていることから、むしろ今後は有料ユーザー化する積極的要因は見いだしにくいとも考察されている。
一方の無料動画配信サービスでは、近年の最大の数字を取ると「TVer」で1700万(MAU:月あたりのアクティブユーザー数)、「ABEMA」で1825万(WAU:週あたりのアクティブユーザー数)となっている。
日本の世帯数が約5000万、テレビ放送の視聴率が30%を叩き出していた時代で1500万がほぼ放送コンテンツのリーチの上限と考えられている中で、無料動画配信サービスも「見えない壁」に到達しており、ここからさらに大きく成長するには「新しい一手」が必要になってくるのではないだろうか。