日本企業で自律的に働くことは、欧米企業ほど簡単ではないと思いますが、それでも今の仕事を自分で「再設計」することはできます。例えば、新たなことを学んだり、ランチの時間に誰かに何かを教えたり、同僚を助けたりといった「小さな変化」を起こすことは可能です。自分で何かを決めて、それを遂行することによって、より自律的で、より自己承認ができる人になれると思います。
多くの若者は「大きな変化」を望みますが、必要なのは「小さな変化」なんです。例えば、昼食時間中にZoomで同僚にリンクトインの使い方を教えるだけでも、続ければあなたが思っている以上のリターンがあるはずです。
バーネット:この本では「グッド・ワーク・ジャーナル」という日記を紹介していて、この日記は今日自分は誰を助けて、何を始めたか、といったようなことを記すものです。何を始めたかは、自律することであり、それが学習であれば、有能になることを意味する。また、誰を助けたかは一緒に働いていることとつながり、関係していることを意味します。
これは先ほど話した自律性、関係性、有能感につながります。コピー機の修理方法を見つけるのを手伝ったり、エクセルを教えたりというような小さいことでいいのです。今ある環境の中で自分の仕事をより良くする方法はいくらでもあります。
エヴァンス:人生やキャリアに多くのことを詰め込むのではなく、そこから多くのものを引き出すことが重要なのです。すでに起こっている「いいこと」を認識し、十分に楽しまないことで、損をしている可能性もあるのです。
例えば、あなたは仕事の中で絵を描きたかったのでグラフィック部門への異動を望んでいたのに、財務部に異動になってしまった。確かにそこでは絵を描けないかもしれませんが、もっとグラフィカルで面白い財務報告書が作れるかもしれない。使うのは絵ではなく、棒や円グラフかもしれませんが。重要なことは与えられている環境で楽しむことであり、目標を低く設定し、それを超えるということです。
――仕事においては上司や部下、同僚との関係性も重要です。
バーネット:とても重要だと思います。実際、これを裏付けるグーグルが行った素晴らしい研究があります。同社は高いパフォーマンスを発揮するチームは、メンバーそれぞれのIQや学歴の高さ、コードのうまさ、仕事の巧みさなどと関係があるのではないかと考えました。
そして、3年にわたる大規模な研究で、600のチーム、多くの人を対象に研究した結果、高いパフォーマンスを発揮するチームには、いくつかの特徴があることがわかりました。パフォーマンスの高いチームのメンバーはほかの人が自分の背中を押してくれ、1人の人間として理解してくれると感じるほか、集団としての安心感があることがわかったのです。
つまり、あなたが20代で新しいアパートの移ったばかりだとか、2人の子どもを持つ母親であるといったことを周りが理解している、という安心感です。
――今のように環境が変わる中で管理職に求められることは。
エヴァンス:先ほども話しましたが、人間には自律性、関係性、有能感が必要です。自分の人生には意味があり、目標に向かって努力しているという感覚が大事なのです。そこで上司ができることは、部下に自律性を発揮する許可を与えることです。「これが、私たちが求めていることなんだけど、君にその解決策はあるかい?」と振ってみる。
そして、きめ細かく、具体的かつポジティブなフィードバックができるようにならないといけません。『1分間マネジャー』の筆者、ケン・ブランチャードは長い間、有名な経営コンサルタントとして活躍していますが、彼は「フィードバックはチャンピオンの朝食だ」とよく言っていました。ただし、フィードバックは「よくやった」だけではダメです。